ノイズの向こうできみは歌う

俺は指先で耳栓を転がした。

ムジカではスピーカーの音量に気を遣ってるとはいえ、スピーカーの真ん前じゃやっぱり耳をやられる。
うちでこの耳栓の存在を知ったというお客さんも多く、俺は一人でも多くの人に騒音性難聴の怖さを伝えていけたらと思う。

「そうそう。あたしも耳鼻科の先生に教えてもらってヘビーユーザーになっちゃったもん。『どうしてもライブ行きたいです』って言ったら、じゃあこれを使いなさいって」

ほんとにお前はこりないやつだな……。
耳大事にしろよ。

転校してからの山都は、補聴器を隠そうとしていない。
クラスメイトにそんな人ばかりだというのもあるようだけど、少しずつ聴力が落ちていってるらしい。

いまの医学では、騒音性難聴を治す手立てはないという。
せいぜい大きな音のする場所にいかないようにするくらいだ。

リュー先輩は、医大の合格圏をキープしている。
山都の耳を治すことを諦めていないらしい。

耳栓を売るくらいしかできない俺は、これでいいのかと悩んだときもあったけど、オーナーが言ってくれた。

『言葉にしなかったら、行動しなかったら、ないのと一緒だ。松橋くんがやってることには、ちゃんと意味があるよ』

それですとんと落ち着いた。

少し動いただけで満足する気はないけど、まずは一歩。
進めるうちは、前に行く。

「それで、学校はどうなんだよ」

アンプに繋がずギターを弾くともなしに弾いていた山都は、顔を上げた。

「楽しいよ! ジョージに似てる子もいるし」

……それってどうなんだ。
めんどくさいやつ?

うすうす気づいてたけど、山都ってもしかして、めんどくさいやつの世話を焼くのが好きなのか?

うわ、それなら完全に脈なしだ……。
学校が離れたいま、この放課後の時間から家に帰るまでしか一緒にいられない。
いままで恵まれた環境に甘んじてたんだなぁ。

それでもこうしてつきあってくれるから、嫌われてるわけじゃないと思う。
あれか。
お友達止まりってやつか。
絶望だ……。

「……それって男?」

こういうことを聞くくらいは許されるだろ。
なんも考えてないノーテンキ女だ。
意識すまい。

だけど予想外に山都はきょとんとして、にまーっと笑ってきた。

「なんですか? ジョージくん、ヤキモチですか?」
「ばっ、なっ……。んなわけねーだろ!?」

なんだよ!
急に恋愛脳出してくんな!

焦る俺に、山都は追い討ちをかける。