ノイズの向こうできみは歌う

もう一緒に行くしかないのだろう。諦めた。
だって車道側の美里先輩の圧がすごいのだ。
すっごい目で見てくる。
怖くてそっちを見ることができない。
もう視線だけで「本当は貴様となんか登校したくはないが、可愛いいとこのお願いなら仕方がない。彼女と並んで歩けるだけでも光栄に思え」と言っているのがひしひしと伝わってくる。

「ジョージのアパートの向かいのアパートあるでしょ?」

ふいに山都由真が言った。

「あぁ、あの洋館みたいな……」
「あれあたしの家」
「は?」
「これから一緒に登下校できるね!」

親指を立ててウインクをしてくる山都由真。

俺は頭を抱えた。
最悪だ……。
たしかに昨日、家がこっちじゃないとは言ってない。

「お前、昨日なんであんなに驚いたんだよ」
「昨日?」
「俺が家こっちじゃないよなって言ったとき、驚いてただろ」
「あぁ。あれはジョージになんて声かけよっかなーって思ってたときに、急に振り返ったからびっくりしたの。そういえば家こっちって言うの忘れてたー」

あははと笑う山都由真に、俺はがっくりと肩を落とした。

確信。
こいつはただのバカだ。
ムジカのことを知ってて焦ったけど、気にすることはない。
俺はもうバンドなんてやることはないんだ。

なんて考えてたら、頭を鷲掴みされた。

「おい、由真のこと『お前』だなんて呼んでんじゃねぇぞ?」
「いだだだだ! すみませんでした離してください美里先輩!」

いてぇ……!
まじでいてぇ!
この人ドラマーだから握力強いのか?

慌てて謝ると、美里先輩はあっさり離してくれた。

「リューでいい」
「は?」
「リュー自分の苗字キライだもんねー」

美里……いや、リュー先輩の方を覗き込んで、山都由真は言う。
なんでだ? 女っぽいからか?

「ていうか、なんで『ジョージ』?」

俺は今さらな質問をぶつける。
昨日初めて会って、あんなことを言ったのに、下の名前で呼んでくる山都由真の神経が俺にはわからない。

山都由真はにっと笑った。

「『スコア』のジョージでしょ?」

やっぱりそれ知ってるのか……。
昨日聞かれた時点で薄々気づいてはいたけど、改めて言われると居心地が悪い。
中学時代にやってたバンド名を出されて、俺は眉をひそめた。

「あたしがギターボーカルで、リューがドラム。あたしたち、ベースができる人を探してたの。ねぇお願い、ベースやってくれない?」

学校が近づいてきて、生徒の数も増えてきた。
ちらちらこっちを見てる人もいて、リュー先輩はやっぱモテるんだろうなぁと考えていた。

山都由真は、俺に向かって手を合わせている。

「悪い、中学ではもうベースをやらないって決めたんだ」

中学入学にあたって決めたこと。

『他人に期待しないこと』
『二度とベースを弾かないこと』

あんな思いはもうたくさんだ。

立ちつくす山都由真とリュー先輩を置いて、俺は教室へと向かった。