ノイズの向こうできみは歌う

「ジョージ、聞いて」

涙を流さなかったのが、せめてもの救いだ。
俺は顔を上げて、まっすぐに彼女を見た。

「あたしね、エシオンが好きなの。たぶん、ジョージが思ってるよりもずっと。ほんとはずっと一緒に音楽をしたい。だけどそれは叶わない……あたしのせいで。でもこの半年間、ほんとに楽しかった。ジョージがいたからだよ」

山都は笑っていた。
音を失う悲しみでも、勝手なことを言ったメンバーへの軽蔑でもない。
ただ、心の底から幸せなときを過ごしたと言わんばかりの表情だ。

なんで、そんな風に思えるんだよ。
お前はもっと歌っていい人間だ。

「だから、最高のライブで終わらせたかった。ちゃんと言うつもりだったけど、ごめんね」

ごめんねなんて言わなくていい。

例えば俺がここで許すとか、世界中を敵に回すとか、そんなんで山都の耳が治るならなんでもする。
神様、山都を歌わせてやってくれよ。

俺は堪らず山都を抱きしめた。

「山都……! 好きだ……! お前が好きなんだよ! お前の歌も、ギターも、できることならずっと聞いていたい……。どうして、叶わないんだよ……!」

歌うこと。
楽器を奏でること。
そんな簡単なことも許されないんだろうか。
ただ音楽が好きなだけなのに。

世の中は理不尽だ。

それでも、生きていかなきゃいけないなんて。

「えと、ありがとう……」

ん?
ありがとう?

俺は山都の肩を掴んでがばっと身を離した。

山都の頬は、心なしか少し赤くなっている。
まさか……。

「聞こ、えてる……?」
「なんか、聴力戻った」

二人の間に沈黙が落ちる。

「いつ、から……聞こえ、てた……ンデスカ」

思わず片言にもなる。
場合によってはここからダッシュで逃げることも厭わない。

山都は視線を泳がせた。

「えと、あたしの歌とギターが好きってとこから、かな?」