ノイズの向こうできみは歌う

走る、走る。

俺は放課後の廊下をただひたすら走っていた。

生活指導の先生に見つかったら怒られるかもしれない。
でも今はそれどころじゃない。

屋上に続く階段を、俺は一つ飛ばしで駆け上がった。

勢いよくドアを開けると――。

「おぉジョージ、おはよー」

もう夕方だ。

ギターのチューニングをしてる山都がそこにはいた。

俺はずかずかと山都に近づく。
渡すはずだったプリントは、ぐしゃぐしゃだ。
力いっぱい握りしめてたことに、いま気づいて驚いた。

息の上がった俺を見て、山都はひるんだようだ。

「どしたの? そんなに慌てて」

聞こえているのか、いないのか。

「あ、もしかしてあたしに早く会いたかったとか? なんちゃって」

にしゃっと笑う彼女に、俺はたまらずリュックを乱暴に開いてスマホを取り出した。

『転校ってなに』

打てた文字はそれだけだった。
山都はじっくりと、多分三回はその文章を読み返した。

彼女の目線が床へと落ちる。

「あー、聞いちゃったんだ……」

どうして、そんな。

『なんで言ってくれなかったんだよ! 俺そんなに頼りないか!? 山都を全力でサポートしようと思ったのに!』

いや、聞いてたはずだ。
この学校に行くこともいい顔されなかったって。
一年間は通うことを許されたって。

山都の聴力はどんどん落ちていってる。
遅かれ早かれ学校をやめることは決まっていたのだろう。

腕がだらりと落ちた。

違う、こんな。
責めたいわけじゃない。
裏切られたとか思っていい立場じゃないんだ。

山都に救われて、山都を好きになって。

全部俺の事情だ。
彼女を手助けしたいとか、俺の勝手な願いでしかない。
山都がそう頼んだわけじゃない。

山都が言ったのは、ただ「一緒にバンドをしよう」という言葉だけだ。

ただのバンドメンバーが、こんなことを言うなんて、間違ってる。

顔を上げることができず、黙り込んでしまった俺の手を、山都は優しく取った。