はっとした。
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
俺はベッドに横たわったまま、スマホに手を伸ばした。
17時37分。
昼過ぎには帰ってきたから、大分寝ていたようだ。
腹がぐううと鳴った。
こんな気分のときでも、腹は減るんだな……。
苦々しく思いながら、俺は身を起こした。
その視界に、押し入れの扉が入る。
実家に置いてくることなどできなかったベースが、その中にはケースに収められたまま横たわっている。
弾き手をなくしたまま。
*
俺と兄貴の生活はすれ違いだ。
深夜に仕事から帰ってくる兄貴を起こさないように準備してから、俺は家を出た。
四月の朝の空気は、まだ少し冷たい。
最後にベースを触ったのは秋だった。
あのときもこんな空気だったな。
随分遠くに来たように感じてしまう。
「ジョージおっはよー!」
突き飛ばされた。
転びかけた俺はなんとか踏みとどまって、背後を振り返る。
顔を見るまでもない。
この声、それにこんなことをするやつは、今のところ一人しか知らない。
「またおまえか……」
そこには山都由真が笑顔で立っていた。
肩甲骨までの髪をふわりと下ろしていて、背中のリュックに流れている。
両手は俺を突き飛ばしたときのパーのままだ。
「おはよー! いい朝だね。調子はどう?」
「おまえに会うまですっげー元気」
俺はげんなり言う。
山都由真を置いて学校に向かおうとした俺だったが、そのとき彼女の隣に立つ存在に気がついた。
「紹介するね。美里理宇。あたしのいとこ! 気軽にリューって呼んでね。リューはドラムだよ!」
ドラムと聞いたところで身構えてしまう。
この人もバンドメンバーなのか……。
恐ろしく綺麗な人だった。
学ランだから男だよな?
山都由真とはあんまり似てないけど、いとこならそんなものだろう。
襟元の校章が青だから、三年生だ。
メガネの奥の切れ長な目が俺を鋭く射抜いている。
ん? 鋭く?
「貴様がジョージか」
貴様って日常生活で初めて聞いたな。
と明後日なことを考えていると、美里先輩は俺の目の前に立ってじろじろ見下ろしてきた。
「あんまり調子に乗ってんじゃねぇぞ? ちょーっと由真に気に入られてるからって勘違いするなよ? 由真は別にお前個人が気に入ってるってわけじゃなくて、ベースの腕を認めてるだけだからな?」
前言撤回。
シスコンな美人だ。
いや、いとこでもシスコンって言うのか?
その顔からは想像もつかないドスの効いた声を出されて、俺は言葉を失った。
「もうリュー! ジョージはこれから仲間になるんだから、そんなに威嚇しちゃダメだってば!」
「いや俺バンドメンバーになるなんて、一言も言ってないよな!?」
なんで勝手に話が進められてるんだ。
メンバーになるなんて一言も言っていない。
「今は、バンドの話はしてないよ?」
小首を傾げて言う山都由真に、俺は苦虫を噛み潰したような顔をした。
こいつ、絶対わかって言ってる。
山都由真は、にーっと笑って俺の顔を覗き込んでくる。
「仲間になるとも言ってねぇ」
今度こそ俺は、山都由真を置いて歩き出した。
が、行き先は一緒なのだ。
脇を山都由真と美里先輩に固められた。
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
俺はベッドに横たわったまま、スマホに手を伸ばした。
17時37分。
昼過ぎには帰ってきたから、大分寝ていたようだ。
腹がぐううと鳴った。
こんな気分のときでも、腹は減るんだな……。
苦々しく思いながら、俺は身を起こした。
その視界に、押し入れの扉が入る。
実家に置いてくることなどできなかったベースが、その中にはケースに収められたまま横たわっている。
弾き手をなくしたまま。
*
俺と兄貴の生活はすれ違いだ。
深夜に仕事から帰ってくる兄貴を起こさないように準備してから、俺は家を出た。
四月の朝の空気は、まだ少し冷たい。
最後にベースを触ったのは秋だった。
あのときもこんな空気だったな。
随分遠くに来たように感じてしまう。
「ジョージおっはよー!」
突き飛ばされた。
転びかけた俺はなんとか踏みとどまって、背後を振り返る。
顔を見るまでもない。
この声、それにこんなことをするやつは、今のところ一人しか知らない。
「またおまえか……」
そこには山都由真が笑顔で立っていた。
肩甲骨までの髪をふわりと下ろしていて、背中のリュックに流れている。
両手は俺を突き飛ばしたときのパーのままだ。
「おはよー! いい朝だね。調子はどう?」
「おまえに会うまですっげー元気」
俺はげんなり言う。
山都由真を置いて学校に向かおうとした俺だったが、そのとき彼女の隣に立つ存在に気がついた。
「紹介するね。美里理宇。あたしのいとこ! 気軽にリューって呼んでね。リューはドラムだよ!」
ドラムと聞いたところで身構えてしまう。
この人もバンドメンバーなのか……。
恐ろしく綺麗な人だった。
学ランだから男だよな?
山都由真とはあんまり似てないけど、いとこならそんなものだろう。
襟元の校章が青だから、三年生だ。
メガネの奥の切れ長な目が俺を鋭く射抜いている。
ん? 鋭く?
「貴様がジョージか」
貴様って日常生活で初めて聞いたな。
と明後日なことを考えていると、美里先輩は俺の目の前に立ってじろじろ見下ろしてきた。
「あんまり調子に乗ってんじゃねぇぞ? ちょーっと由真に気に入られてるからって勘違いするなよ? 由真は別にお前個人が気に入ってるってわけじゃなくて、ベースの腕を認めてるだけだからな?」
前言撤回。
シスコンな美人だ。
いや、いとこでもシスコンって言うのか?
その顔からは想像もつかないドスの効いた声を出されて、俺は言葉を失った。
「もうリュー! ジョージはこれから仲間になるんだから、そんなに威嚇しちゃダメだってば!」
「いや俺バンドメンバーになるなんて、一言も言ってないよな!?」
なんで勝手に話が進められてるんだ。
メンバーになるなんて一言も言っていない。
「今は、バンドの話はしてないよ?」
小首を傾げて言う山都由真に、俺は苦虫を噛み潰したような顔をした。
こいつ、絶対わかって言ってる。
山都由真は、にーっと笑って俺の顔を覗き込んでくる。
「仲間になるとも言ってねぇ」
今度こそ俺は、山都由真を置いて歩き出した。
が、行き先は一緒なのだ。
脇を山都由真と美里先輩に固められた。


