ノイズの向こうできみは歌う

「前もこんな風になったらしいんすけどね」
「中学のときだっけか。長く続くと心配だよなぁ」
「……詳しいんすね」

ちょっと棘のある言い方になってしまったかもしれない。

松永先輩の視線を感じるが、俺は無視して除けてた段ボールを元の位置に戻した。

「付き合ってんの?」
「付っ!?」

言わずもがな、俺と山都がって意味だろう。

思わず顔を上げた俺の目に映ったのは、楽しそうに笑う松永賀先輩の姿だった。
……これはからかわれてるな。

「違いますよ。俺の片想いです」
「ごめんごめん。美里先輩たちがジョージをいじりたくなる気持ちわかるわ」

わかられてたまるか。
ヤラレキャラだってのは自覚している。

「うん、でもいいと思うよ。ジョージといると、山都ちゃんすげー楽しそうだし」
「そう、ですかね」

確かに山都はいつも楽しそうだ。
好きなことしてるからだと思ってたけど、耳のことを知った今ならそれだけじゃないとわかる。

山都はどんなに困難な状況でも、希望を持っていきたいと思ってるのだ。

人から見れば、滑稽なことかもしれない。
治療に専念すれば、聴力の低下は抑えられるかもしれないと。

だけど山都には音楽が全てなんだ。

耳が聞こえなくなってもいいと思ってるわけじゃない。
それより音楽のほうが大事なだけだ。

そんな山都だから、俺も心を動かされたんだ。

「知ってる? 美里先輩が医大目指してる理由」
「いや、聞いてないす」

医者志望なのは前に聞いたけど、そこまでは聞かなかった。

「それってもしかして……」
「そう、山都ちゃんのためだってさ」

あの先輩は……。

「ここまでシスコンだと、いっそ清々しいですね」
「ほんとに。まぁ山都ちゃんが音楽が大事なように、美里先輩も山都ちゃんが大事なんでしょ。いいと思うよ、俺は」