ノイズの向こうできみは歌う

「あ」
「あ」

社会資料室の前で鉢合わせたのは、二年の大中小の『中』の先輩だった。

日直でもないのに世界地図を片付けてくるように言われて、ぶつくさ言いながらやって来たらこの邂逅だ。

「えっと……」
「松永だよ、ジョージ」

名前がわからないのが顔に出てたらしい。
松永先輩は苦笑しながら言った。
俺は苦虫を噛み潰したかのような顔をしながら、小さく「すんません」と言った。
松永先輩が俺の名前を知ってただけに、より申し訳ない。
山都かリュー先輩から聞いてたんかな。

両手が塞がってる俺に、松永先輩はドアを開けてくれる。

「あざす」
「いやいいよ。日直?」
「じゃないんすけど……」

押しつけられたのを察したらしい。
松永先輩はハハッと笑った。

「エシオンでもそんな感じだもんなぁ。美里先輩はあぁだし、山都ちゃんも弾丸みたいだし」

弾丸。
言いえて妙だった。

俺は地図を片づけながら、そういえば、と切り出した。

「松永先輩はリュー先輩のこと『美里先輩』って呼ぶんすね」
「あぁ。美里先輩には荒れてたときにお世話になってね」

俺は松永先輩の顔をまじまじと見つめる。

この人畜無害そうな先輩の荒れ方とは……?

松永先輩はにっと俺を見た。

「まぁ人にはいろいろあるでしょ」

思い当たる節がないわけでもない。

「山都ちゃん、まだ耳治んないんだって?」

質問に俺は言葉を詰まらせる。

いまだ山都の耳は治らない。
なにが原因なのか。
医者も本人もわからないのだから手の施しようがない。

文化祭まであと少しだ。
焦りばかりが募る。

というか松永先輩も山都の耳のことを知ってたのか。