ノイズの向こうできみは歌う

土日を挟んで月曜日。

週末の間に聴力が戻らなかった山都は学校を休んだ。
文化祭は今週末だ。
それまでに聴力が戻らなかったら……。

「おいジョージ」

HRを終えた教室に、鋭い声が響いた。
黄色い歓声を聞かなくてもわかる。

教室の入り口にには、リュー先輩が立っていた。

リュー先輩は、「ついてこい」と問答無用で踵を返す。

向かった先は、屋上だった。

「おっはよー! ジョージ」

そこにいたのは、山都本人だった。

「え、なんで? お前。耳は……?」
「耳? 聞こえないよー。でも本番今週じゃん! 練習しなきゃ!」

いやお前学校休んでんじゃん!
まぁ耳以外は元気なわけだけど……。
これから家まで行こうと思ってたから、手間が省けたってのもあるけど。

「やー、休んでる手前、みんなに見つかるわけにはいかないから、授業中にこっそり来ちゃったよ。なんかサボってるみたいでしんせーん」

お前は体育祭の一件を忘れたようだな。

「ほらジョージ」

山都がなにかを投げて寄こす。
それはピックだった。

「さぁ、練習しよ?」

ステージ慣れしてるせいだろか。
ピック投げるのうまいな。

俺は肩からケースを下ろすと、ベースを取り出した。

とりあえず、一曲目にやる曲を通しで弾いてみる。

音量を考慮して、リュー先輩はエレキドラムだ。
なんの曲をやるかは当日まで秘密にしたい。
ていうかリュー先輩、エレドラまで持ってたんだな……。
この人の妹溺愛っぷりが本当に怖い……。

「うーん、やっぱ変な感じ……」

耳を押さえながら山都は言う。

やっぱり本人が一番自覚しているようだ。
カウント取って、なるべく山都の方に俺らが合わせるけど、細かいところがずれてしまう。

俺はスマホを取り出した。

『声の大きさは今のままでいいと思う』
「ほんと? テンポはなー、ステージの床がバスドラ響きやすい感じだったから、リハのときにもっかいやれば大丈夫だと思うんだけど……」

確かに体育館のステージは、ベースもビリビリ響いていた。
あれならテンポを取れないこともないけど……。

「そうだ! 裸足でライブやってもいい!?」
『却下』

リュー先輩は手話と口頭で言う。
くそ、俺も早く手話で会話できるようになりてぇ。

それにしても返事早すぎ。

「えー!? なんでー!?」
『なんででも』

そりゃそうだ。ライブといえども文化祭だ。
制服だ。
制服で生足とか目のやり場に困るだろが。

ていうか俺が人に見せたくない。
リュー先輩も同じだろう。
珍しく意見が合った。

「うーん、じゃあスリッパは脱ぐか」

まぁそれくらいなら許容範囲だろう。
でも一番は山都の聴力が戻ることだ。

山都は落ち着いて見える。
文化祭を控えてそわそわしているところはあるが、知恵熱を出すほどではないだろう。

じゃあなにが山都の聴力を阻んでいるんだろうか。

次の日も山都の耳が治ることはなかった。