ノイズの向こうできみは歌う

「耳のことがわかってすぐだ。『なんで自分が』と泣いて暴れて、聞こえなくなった」

馬鹿か俺は。

山都が耳のことを話してくれたとき、なんと思った?

強い決意がある?

覚悟を決めている?

そんなわけあるか。
山都はまだ十三の女の子なんだぞ。
不安な夜だってあったはずだ。

ただその恐怖を押し込めて、むりやり笑ってただけだったのに。

「……そのときは、どうやって治ったんですか?」

最高の演奏をできるように、なんて俺の思い上がりでしかなかった。

「……ライブの映像を見てたんだよ」

リュー先輩はぽつりと言った。

「ムジカであったライブ。ある日帰ってきたら、明かりも点けずに食い入るように見てた。……お前のライブだよ」
「え……?」

山都が見てた?
俺のライブを?

ムジカのオーナーがいつもステージを撮ってたのは知っていた。
頼めばデータを送ってくれることも。

だけどまさか、山都が自分たちのライブだけじゃなくて、俺のライブも見てくれてたなんて。

「ジョージとバンドをやりたいと言い出した由真は、もう聴力が戻っていた」

それってつまり……。

「由真はお前とバンドを組むためだけに、受験勉強を頑張ったんだよ。無事に受験を終わらせて、ジョージを探すってな。同じ学校だったのは嬉しい誤算だったがな」

入学式のときの山都の様子を思い出した。
本当に嬉しかったんだろう。
自己紹介のときに乱入してくるわ、帰り道ストーキングするわ、毎日つきまとってくるわ。

相手が俺ってところに照れくささがあるけど。

「見つからなけりゃ、諦めてくれたかもしれないのに」

リュー先輩は俺をギロリと睨みつけて言った。

びくりと身を竦ませてしまったけど、そうなのかもしれない。
これ以上聞こえなくなったら、聾学校に通わざるを得ないだろう。
山都には時間がない。

「……今日は、なんで聞こえなくなっちゃったんでしょうか」
「今日が楽しみで昨夜あんまり眠れなかったみたいだし、オーバーヒートしたんだろ。ちょっと知恵熱が出てた。検査結果も聴力以外は問題ない。ただな」

このままではライブをできない。

難聴といえども多少は聞こえているから、これまでやってこれた。
それが完全に聞こえないとなると、勝手が違ってくる。

最悪の場合、ステージに立てないんじゃないだろうか……。

「久々に聞こえなくなったから、ショックが続いてるのかもしれない。なぁジョージ」

リュー先輩がまっすぐにこっちを見た。

話だけでも聞いてやってくれないか、とその言葉のあとに続いた。