ノイズの向こうできみは歌う

「山都?」

彼女の方を向いて、ぎくりとした。
山都の体は完全に固まって、顔は強張ってしまっている。
その顔は蒼白だ。

「由真」

リュー先輩はスティックを放り投げて、山都の元へと駆け寄った。

山都の顔がこっちを向く。

「ジョージ……」
「由真、大丈夫か。どうした」

なんだ?
なにが起きている?

「山都……どうしたんだよ」
「なんで……? なんでちゃんと喋んないの……? ちゃんと喋ってよ! 全然聞こえないよ!」

山都はがくりと崩れ落ちた。
リュー先輩がそれを支える。

リュー先輩がなにか手を動かしている。
あれは、手話か……?

「ジョージ、そいつらと片付け頼む」

リュー先輩は山都の肩を支えて体育館を出て行く。

俺はそれをただ見ていることしかできなかった。

     *

機材の片付けを終えて、生徒会室に報告して、家に帰ってベッドに座ってじっとしていたら、もう日が沈んでいた。

メッセージが届いて、家を出た。
『美里』の表札の下のインターホンを鳴らす。

「おう、呼び出して悪かったな。入れ」

出迎えたのは、リュー先輩だった。

テーブルの前に座った俺に、リュー先輩はよく冷えたお茶を出してくれた。
変わった香りがする。
ハーブティーってやつかな。

「山都は……」
「隣で寝てる。母さんが帰ってきてるから心配するな」

良かった……落ち着いたのか。

リュー先輩は俺の前に座って、紅茶を飲んだ。沈黙が続く。

「耳は……聞こえるようになったんですか」
「……眠る前はまだ、聞こえてなかった」

それを聞いて、俺はなにも言うことができなかった。

山都の耳は、まさか……。

「一度、今日みたいに聞こえなくなったことがある」

その言葉に俺は顔を上げた。

リュー先輩はテーブルを睨むように視線を落としていて、目が合うことはない。
その表情は、自分への憤りをなんとか抑えてるようにも見えた。