ノイズの向こうできみは歌う

そう、なのか?

山都の障害は後天性のものだ。
だんだん聴覚が失われていく恐怖は、並大抵のものじゃないんじゃないだろうか。

ふと、あの屋上でのことを思い出した。

山都はもう泣かないと言っていた。
覚悟はできている、と。

「でもなぁ、頼られたいよな。好きな女には」
「好きなんて言ってない!」

思わず叫んでしまって、はっと周りを見回した。
ローカル線の車内は客もまばらで、でもそんな青臭いことを叫んだ俺には生温かい視線が注がれている。
俺は小さくなって、俯くしかなかった。

「あはは、まぁいい傾向だと思うよ。譲二、明るくなった」

明るく?
俺が?

いまいち自分じゃピンとこない。
だけど兄貴が言うならそうなんだろう。

いい傾向だというなら、山都にも心から音楽を楽しませられるようになりたいと思う。

普段が楽しんでないってわけじゃないけど、気が張ってる部分もあるんじゃないだろうか。
あの決意はそういうことだ。

「さ、着いたぞ」

電車は地元の駅に滑り込んでいた。

ベースは持ってきている。
俺は休みを無駄にしないと心に決めて、座席から立ち上がった。

   *

その日の晩、俺と兄貴と母さんの三人で食卓を囲んでいた。
父さんは会社の人たちと飲みに行っている。
久し振りに息子たちに会えるのに、と嘆いていたそうだが、そんなの気にする歳でもねぇだろ。
それに三日もいるんだし。

「二人とも、ちゃんと食べてるの? ちょっと痩せたんじゃない?」
「なんだよ、俺が悪いみたいにー。ちゃんと飯は作ってやってるよ。譲二、またバンド始めたからそれで痩せたんじゃない?」

俺はうぐっと飯が喉に詰まった。
それ言わなくてもいいだろ……。

「バンド……」

ほら、母さんがびっくりしている。

バンド活動こそなにも言ってこなかった母さんだけど、俺がスコアをやめたときは、心配を掛けてしまった。
学校以外は外に出ようとせず、あんなに毎日弾いてたベースを押し入れの奥にしまい込んだ。

聞こえなくなってしまったベースの音に、戸惑わせてしまっただろう。

「そう、また始めたの」

それでも母さんは深くは聞いてこようとせず、それだけで察してくれた。

「そうそう。しかも超可愛い子と組んでるんだよ?」
「あら、どんな子なの?」