ノイズの向こうできみは歌う

「ジョージが言ったんじゃん。『雑音だなんて言わせない』って。それってジョージのベースも含めてってことでしょ? あたし、ジョージとならできると思うの。やってみよう? もし失敗しても、できるようになるまでやればいいんだし」

山都はピックで俺を指して、にっと笑った。

なんだかなぁ。

一緒にバンドやろうとか、俺のベースがいいとか、山都が俺の助けを必要としてるみたいに言うけど、実際のところ、助けられてるのは俺の方かもしれない。

こういうので、どっちがつらいとかいうのはずるいけもしれないけど、俺の悩みなんかより山都の方がずっと大変なはずだ。
耳が聞こえなくなるなんて、俺だったらもっと周りに当り散らしちまうかもしれない。

だけど、山都は一緒にやろうと言ってくれる。

小学生時代の俺に言ってやりたい。
仲間がいるっていうのは、こんなに心強いものなんだぞ、と。

俺はピックを握り直した。
一弦を弾く。
重低音がビリビリと足の裏に伝わった。
二、三、四、とチューニングを合わせていく。

山都は静かにその様子を見ていた。
俺は深く息を吸って、長く吐く。

LODのあの曲。
ライブの帰りに山都が歌った曲なら弾いたことがある。

ワン、ツー、スリー、フォー。

あぁ、懐かしい。この感じ。
音が指先から、耳から、足の裏から、腹の底から伝わってくるこの感じ。
ベースじゃなきゃ味わうことのできない痺れが、俺の鼓動を早めていく。

でも、もどかしい。
指さばきが追いつかない。
くそ、これが八ヶ月のブランクか。
頭の中じゃリズムは正確に刻まれてるのに、実際聞こえる音はガタガタだ。

だけど。

顔を上げると、案の定、山都は笑っていた。

うん、楽しいよな。
音楽は楽しい。

跳びたくなる。
頭を振りたくなる。
叫びたくなる。
笑いたくなる。

ずっと、この感覚を忘れてた気がする。

最初は、その光景に憧れたはずだ。

好きなバンドのライブを見て、その楽しそうな光景を自分も味わいたいと思った。

理想に追いつけなくて、どんどん周りが見えなくなっていった自分。

それを、山都は引き戻してくれた。
いや、このままの自分でいいと言ってくれたんだ。

それでも。

俺は、お前が自由に歌えるように弾いてみたい。

「ははっ、全然ダメだ」

一曲弾き終わる頃には、左手が痛くなっていた。
こりゃ指作りから始めないとダメだな。
指が柔らかくなりすぎてしまってる。

「でも、やっぱジョージのベースはいいね」

当たり前のように言う山都に、俺は言葉に詰まってしまう。

なんだよ、こんなんじゃ全然だ。
文化祭まであんまり時間がない。

ただ弾けるだけじゃダメなんだ。
山都に完璧に合わせられないとダメだ。

知らず知らずのうちに、眉間にしわが寄っていく。

「ジョージ、音を楽しむよ。カンペキに」

眉間をぐりぐりと押された。
指はすぐに離れて、山都のその指はピックを摘まむ。

触れられたところが熱を持ったみたいだ。

俺はそれを悟られないように、弦を確認するふりをした。