ノイズの向こうできみは歌う

山都はくるりと前を向いて、また歩き出した。

やっぱ暑かったのか。その長さだもんな。

「夏休みだし、ジョージしかいないし」

ぽつりと山都は呟くと、それきり黙ってしまった。

いつも、髪が邪魔じゃないのかと思っていたけど、補聴器を見られるのが嫌だったのかもしれない。
思えば二人でライブに行った日も、髪を下ろしていた。

……『内側』に入ったということだろうか?

「さ、ついたよー」

英語科棟二階の教室の前には、アンプ二台とドラムがすでに置いてあった。

「リュー先輩が持ってきてくれたのか?」
「ううん。二年の先輩でね、リューの手伝いをしてくれる人たちかいるの。先輩たちに運んでもらったって」

手伝い……?
脅しじゃないよな……。

締め切っていた教室はむわっとしていて、俺たちは急いで窓を開けてクーラーを点けた。
おおよそ換気ができたところで窓を閉めて、クーラーの冷気に一息つく。

ドラムとアンプを運び入れて、ケースからベースを取り出した。

コードを繋いで、電源を入れて。

立ち上がって、肩に食い込むストラップに、知らず知らずのうちに緊張してしまう。

こうやって弾くのは、久し振りだ。

うちはマンションだから、家でアンプに繋ぐことはないし、なによりまともに弾くのは、最後のライブ以来だ。

黒光りするベースは、黒光りするままで待っていてくれた。

弾けるだろうか。

ほぼ一年振りか?
指の動きは悪くなってるだろう。
左手の指は、もう大分柔らかくなっている。

俺は左手でネックを持ち、右手でピックを握って固まっていた。

「ジョージは弾けるよ」

クーラーの音だけが充満する教室に、凛とした声が響いた。

顔を上げると、ギターを抱えた山都と目が合った。
俺はその目から視線を反らせなくなる。

その目は、俺がちゃんとまたベースを弾けるようになると信じきっている目だ。
どうしてそこまで信じられるんだ。

「……なんで、そう思う?」

気づけば、そう聞いていた。

俺は俺が信じられない。
自分のやり方は間違ってないと思ってやってきた。

でもそれが、あの結果だ。

「だってあたしはジョージのベースが好きだから。ジョージなら絶対大丈夫」

なんだそれ。
理由になってねぇよ。

また暴走するかもしれない。
山都の望む演奏をできないかもしれない。

それでもお前は、聞いてくれるのか?