ノイズの向こうできみは歌う

俺は牛乳を注いで、兄貴が用意してくれたトーストとハムエッグの横に置いた。
山都の前には麦茶が置いてある。

「おまえ、朝飯はちゃんと食ったのかよ」
「うん? 食べてきたよ」
「そっか」

俺がトーストにかぶりつくのを、山都は楽しそうに見ていた。

夏休みが始まった。
バンド活動始動である。

八時を過ぎれば、もう暑さにうんざりしてくる。
俺と山都は楽器ケースを担いで、そんなうだるような暑さのアスファルトの上を歩いていた。

「うん、英語科棟の二階借りれたって」

リュー先輩からのメッセージだ。
山都はスマホを見ながら言った。

英語科棟は、特別教室を挟んでさらに渡り廊下を行ったところだ。

「なんで英語科棟?」
「三年生が課外あるから普通教室じゃうるさいし、屋上じゃ暑いでしょ? 英語科棟なら夏休みは誰も使わないし、クーラーあるから涼しいじゃーん」

だめだ、クーラーと聞いただけで暑くなってきた。
久し振りにベースを肩に担いで歩くけどしんどい。
ベースってこんな重かったっけ?

「あれあれー? ジョージくんは楽器持ってるだけでへばってるんですかー?」
「んなわけねーだろしばくぞ山都」
「きゃー! こわーい!」

そう言ってギターを背負った山都は駆けていく。

……あいつの方が体力あるかも。
今日から筋トレしよう。

俺はそう心に決めて、山都の後を追った。


昇降口では、すでにリュー先輩が待ち構えていた。

「適度に休憩取りつつちゃんと練習すること。由真に手出したらぶっ殺す」
「だから出しませんって!」

どいつもこいつも!
兄貴はともかくリュー先輩は目がマジだ。
怖い!

山都がリュー先輩に「ありがとねー」と言って、カギを受け取った。

二人で英語科棟へ向かう。

開け放たれた窓からセミの鳴き声が聞こえる。
二つに結んだ山都の髪を、風が揺らした。

そうだ、なんか違うと思ったら、今日は髪を結んでいるのだ。
赤い補聴器がよく見える。

「髪、結んでるんだな」

俺の声に山都はぴたりと立ち止まって、振り返った。
まじまじと俺の顔を見たあと、にっと笑う。

「気づいてないのかと思った」
「いや気づくだろ普通」
「暑いからねー」