ノイズの向こうできみは歌う

「嫌じゃないよ! あたしならジョージに合わせられる!」

山都は俺の腕を掴んで勢いよく言った。
……近い。
俺は動揺を悟られないように、山都の手を離した。

でも俺も同じことを思った。
山都となら、合わせられるんじゃないか?
そんな予感がした。

「だからお願い! あたしと一緒にバンドやろう!」

ったく。
そんな事情があるんなら、最初から言えよな。
まぁあの頃の俺じゃあ拒否るしかなかったかもしれないけど。

俺だってノイズのヤマトのギターはそれなりに気に入ってたんだ。
激しいのにすとんと心の中に落ちてくるようなギターだった。
歌は言わずもがな。
『ノイズ』なんてバンド名がもったいないくらいに。

「あのさ、なんで『ノイズ』なの?」

気になってはいた。
そりゃあロックバンドだから清涼音とは言わないけど、ノイズだなんて似合わない。
山都の歌は胸を打つ。

山都は目を伏せた。
さっきよりも夕日は沈んだが、彼女の表情はよく見えた。

ノイズ(雑音)って言っとけば、なにしても許されると思ったの」

なんだそれ。
おまえは自分の価値をわかってない。
日本中の人を感動させられる歌声を持ってるというのに。

いつだったか、リュー先輩の言ってたことを思い出した。

『あいつは歌うために生まれてきたような人間だ。俺はそれを邪魔するものが許せない。由真が好きに歌えるためにはなんだってするつもりだ』

なんて大げさなと思ったけど、今ならその気持ちがわからんでもない。
音を失いつつある彼女に、悔いのないように歌わせてやりたい。

「ねぇ、やっぱりノイズに入るのはいや……?」

山都は恐る恐るといった様子で問いかけてくる。

「いやだ」
「なんで!?」

山都はこの世の終わりのように叫んだ。
最後まで聞け。

「おまえの歌はすごいんだ。ノイズ雑音なんて言わせねぇ」

ノイズの対義語……ノイズ……NOI……。

「そうだエシオン! バンド名をESION(エシオン)にするなら入ってもいい」

雑音なんかじゃない。
その反対だ。

山都はぽかんとしている。

「あははは! ジョージったら、雑音の反対は純音だよ! 英語で言ったらPURE TONEかな?」

山都はなおもおかしそうに笑う。

そうなのかよ……。
英語苦手なのがあだになった……。