ノイズの向こうできみは歌う

「字のとおり騒音を聞き続けることで耳が聞こえなくなる病気なんだけど、ライブでなっちゃう人もいるんだって。あたしの耳が聞こえづらくなったのは、小五の秋だった」

俺はぞっとした。
四ヶ月近くそれを隠していたこともだが、その理由だ。
だって、そんな。
ライブでなるって――。

「ライブのあとに耳が変になることない? 大抵はしばらくしたら治るけど。いつものようにノイズのライブを終えたあと、あたしの耳はいつまで経っても治らなかった。病院に行って初めて、あたしの耳はもうこれ以上良くなることはないって知ったの」

俺は目の奥が熱くなった。

だって、こんなのあんまりだ。
山都は誰よりも音楽を愛している。
歌うために生まれてきたような人間だ。

なのに、そんな彼女から音を奪うようなことをするなんて。

俺は神様を恨んだ。

「そんな顔しないでよ」
「だって、おまえはどうして泣かないんだよ……」

山都は困ったように小さくため息をついて、空を仰いだ。

「もう十分泣いたしね。もう泣かない。だってあたしには時間がないの」

彼女の声には固い決意が込められている。
夕日が逆光になって、山都の顔はよく見えない。
だけど泣きそうな顔をしている気がした。

「あたしの聴力はどんどん落ちてってる。本当はこの中学に行くのもいい顔されなかったの。支援学校に行けって。でも、どうしても完全に聞こえなくなるその日まで音楽をやりたかった……。一年だけって条件でこの中学に通わせてもらったの」

今なら山都が必死だった理由がわかる。
もう七月だ。
残された時間は少ない。

なのに山都はずっと俺をベースにと望んできた。

なんでなんだよ。
こんな頑なで性格悪くてめんどくさいやつなんかよりも、もっといいベースはいっぱいいるだろ。

「なんで、他をあたらなかったんだよ」

山都は一瞬きょとんとして、それからふっと笑った。

「あたしね、ずっとジョージの演奏見てきたんだよ? 正確でかっちりしてて、窮屈そうなベースだなって思った。でも真摯に音楽に向き合ってるんだなって伝わってきた。この人と弾けたらどんな風になるんだろうって考えてたの。でもそんなときに病気になっちゃって、スコアも解散して連絡の取りようがなくて、途方に暮れてた。中学でどうにか探せたらって入学してきたら、ジョージがいるじゃない? 入学式の日に一目見てビビっときたの。これは運命だって。やっぱりジョージがいいって思ったの」

運命なんて。
そんなのただの偶然だ。
ノイズならベースやりたがるやつなんか捨てるほどいるだろ。
俺じゃなきゃいけない理由にはならない。

「こんな理由じゃ弱い? ……本当はもう一つあるの。ジョージが嫌がるだろうから言いたくないけど」
「言えよ。いまさらだ」

耳のことを黙っておかれた以上にダメージ受けることなんかなさそうだ。
俺が続きを促すと、山都はやっぱり言いよどんだけど口を開いた。

「ジョージのベース、ピッチもテンポもしっかりしてるじゃない? あたしの耳はもう大分聞こえなくなってる。だから、あたしが少しずれただけでもちゃんと言って修正してくれるんじゃないかなーって……」

山都は言葉が尻すぼみになっていく。
なんだそんなことか。

「スコアの最後のライブ見たんだろ? あれが嫌じゃないのかよ」

俺の正確さが合わなくて、解散になってしまったスコア。
正直、あれを繰り返すかと思うと気が滅入る。