ノイズの向こうできみは歌う

あの光景を俺が見ていたことにはやっぱり二人は気づいてなかったようで、ムジカを出たところで捕まった。

帰り道。
山都はあのバンドが良かった、あのフレーズは泣けた、などと絶え間なく語っている。
俺とリュー先輩と交互に話しかけているから半分は生返事で聞けたけど、頭の中はずっと他のことを考えていた。

山都の耳はその長い髪で隠されている。

そういえば、こいつが耳を出しているのを見たことがない。この暑い季節、結んだ方がいいんじゃないかと思ったこともあるが、下ろしている方が好きなんだろうと口に出さずにきた。


結局問い詰めることなどできず、家に帰り着いてしまった。

眠れぬ夜が更けていく。

   *

次の日、山都はまた学校に来なかった。
担任はカゼで欠席だと言っていた。

他の理由があるんじゃないかと今なら思う。
LODのライブの次の日も、体育祭の日も、山都は休んでいた。
あれは、耳に異常があったからじゃないか?

俺はスマホに視線を落とす。
山都からの連絡はない。
元々俺から連絡した回数は少ない。
いつも山都から一方的に着ていた。
既読無視していつも怒られていた。

今日は静かなスマホが憎らしい。


屋上に向かったのはなんとなくだった。

リュー先輩に連れ出されて以来、度々訪れていた場所だ。
山都と来ることがほとんどだったけど、俺はこの場所が嫌いじゃなくなっていた。

相変わらず部屋の押入れを開けるのは怖い。
ケースに納められているとはいえ、ベースに触れるなんてしたら、きっとまだ手が震えてしまう。

それでも、空を見渡せる開放的なあの場所で、ギターを手にする山都を見るのはなんだか泣きたくなるような思いを抱かせた。

たぶん俺たちは、音楽なしでは生きていけない。

俺は屋上のドアを開けた。

「……やっぱ来てたのかよ」

屋上の柵にもたれかかって、山都は町を見下ろしていた。
長い髪が風に揺れる。

山都は首だけで振り返った。

「おはようジョージ」
「もう放課後だ」

山都はふっと笑うと、また視線を戻した。
それきりなにも言わない。

夏の夕日が沈んでいく。
部活の音や、帰り道に友達同士で話す声。
そんなかすかな音が聞こえてくる。
……山都には聞こえているのだろうか。

「見たんでしょ、これ」

ふいに山都が髪をかき上げた。
今度ははっきり見える。
山都の耳にはしっかりと補聴器がはめられていた。

俺は言葉を失った。

「気づいてた、のか……」
「一瞬目を反らしたのが見えたから。……あーあ、あたしもバカだよねー。LODのライブのときは気づかれなかったのに」

そうだ、あの日のライブでは、山都は特になにもしてなかったように思う。
髪を下ろしていたから補聴器をつけてたかはわからないけど、少なくとも補聴器と耳栓をつけ替えるようなことはしてなかった。

「騒音性難聴、って知ってる?」

初めて聞く言葉だった。
俺は首を横に振る。