「松橋くん」
肩を叩かれてはっとした。
振り返るとそこにはオーナーがいた。
相変わらずワイシャツにベストで、どこにでもいるおじさんといった容姿だ。
ロックバンド好きとは思われそうもない。
頭の後退具合は歳のせいだろう。
「久し振りだねぇ。元気にしてたかい?」
俺は喉が詰まって、声を出せずにいた。
あの日のライブ。
台無しにした張本人は俺だ。
終演後に何度も何度も謝って、オーナーはいいよと言ってくれたけど、もうムジカに来ることなどできずにいた。
こんな容姿のオーナーだけど、バンド愛は誰よりも強いのだ。
でなければ、何十年もここでライブハウスなど続けていられない。
慕っているミュージシャンも多いのだ。
まさか今日、オーナーと会うことになるとは思わなかった。
心の準備ができていなかった俺は、オーナーに掛ける言葉を探していた。
「山都さんと同じ中学なんだって? さっき聞いて、びっくりしたよ」
「はい、まぁ……」
もっと気の利いたことを言えないのか、俺。
オーナーが気を遣ってくれてるのがわかって、俺はいたたまれなくなる。
「本当に心配してたんだよ。スコアもノイズも、実質解散ってことになっちゃったから」
「え?」
ノイズが解散?
スコアだけじゃなくて?
山都はそんなこと一言も言ってなかった。
人気絶頂だったノイズが解散する理由が思いつかない。
たしかにベースを探してるとは言ってたけど、ギターボーカルとドラムは揃っている。
どうして解散なんか……?
しかし俺が聞き返す前に、客電が消えてしまった。
「楽しんでいってくれ。またここに通ってくれる日を待ってるよ」
オーナーは俺にそう耳打ちをして、人波をかき分けて行ってしまった。
MCがオープニングを告げる。
山都は帰ってこない。
まぁこの人だかりじゃ合流するのも無理な話だっただろう。
さっきオーナーが言ったことが、頭の中をグルグルしている。
俺は好きなバンドの演奏さえ、集中できずにいた。
MCがライブの終了を告げて、客がじわじわと出口へ向かう。
俺はその人波に流されながら、無意識に視線をさまよわせていた。
肩下までの髪が視界に映る。
あいつ、結局髪結ばなかったのかよ。
まだちょっと距離があるのもあって、俺は声を掛けられなかった。
なんと言ったらいいのかわからないというのもある。
向こうはこっちに気づいていない。
ふいに山都は髪を耳にかけると、なにかを外した。
あれは耳栓?
なんでライブ中に耳栓なんかしてたんだ?
山都が隣にいたリュー先輩からなにかを受け取った。
それを耳にはめる。
俺は、その様子から目を離せなかった。
なんであんなものを山都がつけなくちゃいけないんだ。
山都は何事もなかったかのように、耳にかけていた髪をまた元に戻した。
幸いにも二人はまだこっちに気づいていない。
どくどくと早鐘を打つ心臓をどうにかする時間がほしかった。
あれはどう見ても、補聴器だった。
肩を叩かれてはっとした。
振り返るとそこにはオーナーがいた。
相変わらずワイシャツにベストで、どこにでもいるおじさんといった容姿だ。
ロックバンド好きとは思われそうもない。
頭の後退具合は歳のせいだろう。
「久し振りだねぇ。元気にしてたかい?」
俺は喉が詰まって、声を出せずにいた。
あの日のライブ。
台無しにした張本人は俺だ。
終演後に何度も何度も謝って、オーナーはいいよと言ってくれたけど、もうムジカに来ることなどできずにいた。
こんな容姿のオーナーだけど、バンド愛は誰よりも強いのだ。
でなければ、何十年もここでライブハウスなど続けていられない。
慕っているミュージシャンも多いのだ。
まさか今日、オーナーと会うことになるとは思わなかった。
心の準備ができていなかった俺は、オーナーに掛ける言葉を探していた。
「山都さんと同じ中学なんだって? さっき聞いて、びっくりしたよ」
「はい、まぁ……」
もっと気の利いたことを言えないのか、俺。
オーナーが気を遣ってくれてるのがわかって、俺はいたたまれなくなる。
「本当に心配してたんだよ。スコアもノイズも、実質解散ってことになっちゃったから」
「え?」
ノイズが解散?
スコアだけじゃなくて?
山都はそんなこと一言も言ってなかった。
人気絶頂だったノイズが解散する理由が思いつかない。
たしかにベースを探してるとは言ってたけど、ギターボーカルとドラムは揃っている。
どうして解散なんか……?
しかし俺が聞き返す前に、客電が消えてしまった。
「楽しんでいってくれ。またここに通ってくれる日を待ってるよ」
オーナーは俺にそう耳打ちをして、人波をかき分けて行ってしまった。
MCがオープニングを告げる。
山都は帰ってこない。
まぁこの人だかりじゃ合流するのも無理な話だっただろう。
さっきオーナーが言ったことが、頭の中をグルグルしている。
俺は好きなバンドの演奏さえ、集中できずにいた。
MCがライブの終了を告げて、客がじわじわと出口へ向かう。
俺はその人波に流されながら、無意識に視線をさまよわせていた。
肩下までの髪が視界に映る。
あいつ、結局髪結ばなかったのかよ。
まだちょっと距離があるのもあって、俺は声を掛けられなかった。
なんと言ったらいいのかわからないというのもある。
向こうはこっちに気づいていない。
ふいに山都は髪を耳にかけると、なにかを外した。
あれは耳栓?
なんでライブ中に耳栓なんかしてたんだ?
山都が隣にいたリュー先輩からなにかを受け取った。
それを耳にはめる。
俺は、その様子から目を離せなかった。
なんであんなものを山都がつけなくちゃいけないんだ。
山都は何事もなかったかのように、耳にかけていた髪をまた元に戻した。
幸いにも二人はまだこっちに気づいていない。
どくどくと早鐘を打つ心臓をどうにかする時間がほしかった。
あれはどう見ても、補聴器だった。


