ノイズの向こうできみは歌う

チャイムの音が鳴り響く。
何回も何回も何回も!

「近所迷惑だからやめてくださいよ!」

玄関のドアを開けると、予想どおりそこにはリュー先輩がいた。
後ろから山都が「やっほー」とひょっこり顔を覗かせる。

「三秒で出てこないのが悪い」
「無茶言わないでください!」

山都の話し声が聞こえたから、居留守は無理だろうなとは思ったけど、連続ピンポンとはリュー先輩も人が悪い。
苦情が入ったらリュー先輩のせいだからな。本人には言えないけど。

リュー先輩は俺を上から下まで見回す。
そしてふんと鼻を鳴らした。

「なんだ、ちゃんと準備してるじゃないか」

とは言っても、そんなにしゃれた格好ではない。

兄貴に買ってもらったちょっといいTシャツに、ダメージジーンズ。
お気に入りのコンバースのハイカット、そしてボディバッグ。
ライブハウスには定番の格好だ。

「ムジカだからね! 身軽にいかなきゃ!」

そういう山都は袖がふわっとしたアイボリーの短めワンピースに、スキニーデニムだ。
服がシンプルな分、赤のカラフルなスニーカーを合わせている。
だけど髪は下ろしたままだ。

「髪、引っかかるぞ」
「あとでちゃんとするからだーいじょーうぶ!」

山都は追求から逃れるように、くるりと方向転換して歩き出した。
リュー先輩が俺をじろりと見る。
はいはい妹さんに小言言ってすみませんでした!



久し振りのムジカは、あいかわらず繁盛していた。
基本的にアマチュアバンド御用達のライブハウスだけど、たまに知る人ぞ知るなプロミュージシャンも使うライブハウスだ。
それなりにやっていけてるんだろう。

今日のROCK JACKはそんなマイナーミュージシャンが何組か出演する、いわゆる対バンだ。
受験のときにラジオで聞いたことのあるバンドも出るようだ。

「あたし、オーナーにあいさつしてくるねー。ジョージは先に入っててー」

ムジカに着くやいなや、山都は『スタッフオンリー』の扉へと向かっていってしまった。
リュー先輩も当たり前のようについていくから、俺は一人取り残されてしまった。

俺もオーナーにあいさつすべきだっただろうか。
小学生時代は何度もお世話になったライブハウスだ。
でも合わせる顔がない。

スコアの最後のステージ。
あの日は、一曲目からもう息が合っていなかった。

どんどんテンポが上がっていくドラム。
湿度のせいかチューニングのずれるギター。
歌詞を間違えるボーカル。

そしてそんな彼らにイライラしっぱなしのベース。

出るべきじゃなかったんだ。
練習段階からギスギスしていた。
だけどムジカのステージに立てるというプライドが、それを許さなかった。

あの日、最後の曲。
ギターとベースとドラムで締めるはずだった。
噛み合ってなくても最後くらいは合わせようと思った。

客席の唖然とした顔が目に浮かぶ。

ラストの八小節。
ライブハウスに響いていたのは、ベースの音だけだった。