ノイズの向こうできみは歌う

週が明けて月曜日。

俺はどんな顔をして山都由真に会ったらいいか分からなくて、いつもより三十分早く家を出た。

見上げる山都由真の家は、まだカーテンが閉まっている。
俺は見つからないうちに、そそくさと学校へと向かった。

チャイムが鳴るギリギリで、教室に行った。
山都由真とは同じクラスなのだ。
いつまでも逃げてるわけにはいかない。

結構身構えて行ったのに、その日、山都由真は休みだった。



「おい」

放課後。
帰ろうとした俺にお声がかかった。
女子が黄色い声を上げてるけど、そんなん聞かなくても誰だかわかる。
逃げたいけど逃げようがない。

「おいこら逃げんなジョージ、しばくぞ」

やっぱ無理ですよね、リュー先輩……。

黙って先を行くリュー先輩の背中を、俺はついていった。
リュー先輩はどんどん階段を上っていく。
屋上の扉の前、そこにあったものに、俺は目を見開いた。

「リュー先輩、これ……」
「由真のお願いでここに置いた。ちゃんと先生の許可ももらってる」

そこにあったのは、ドラムとアンプだった。

「許可って……」
「成績いいと、いろいろ使えて便利だな」

リュー先輩、頭良かったのか。
いとこバカだと思ってたけど、それだけじゃないんだな。

俺はアンプを見下ろした。

引っ越しのときにちょっと触ったけど、半年以上触っていなかったアンプ。
もちろんこれは俺のと違うけど、これを見るだけで心臓がどくんと脈を打つ。

「由真の歌を聞いたんだろ?」

その言葉に俺は視線を上げた。

「あいつは歌うために生まれてきたような人間だ。俺はそれを邪魔するものが許せない。由真が好きに歌えるなら、なんだってするつもりだ」

リュー先輩の顔には、覚悟が浮かんでいる。
その気持ちはわからなくもない。
ワンフレーズ聞いただけでも、山都由真の歌には衝撃を覚えたのだ。
ずっと一緒にバンドをやってるリュー先輩なら尚更だろう。

「……確かに、あいつの歌はすごいと思いました。でも、それならベースは俺じゃなくたっていいはずです。もっとうまい人は、いっぱいいます。それに……ノイズってことは、リュー先輩もあのライブを見たんでしょう? 俺はもうバンドをやるつもりはないんです」

あの日のことを思い出すと、今でも胸が痛い。
俺が壊してしまったライブを、まだ受け入れることができずいいた。

受け入れられる日なんか来るんだろうか。

「他を当たってください。それがあいつのためだ」

俺よりうまいベーシストは、たくさんいるはずだ。
山都由真に見合ったベーシストが。

背を向ける俺に、リュー先輩はなにも言わなかった。