ノイズの向こうできみは歌う

問われて俺は言葉に詰まる。

楽しかった。
悔しながら。

山都由真と違って、俺はライブハウス以外でのライブ経験がない。
ムジカ以外でのライブを見ることはなかったのだ。

それでもドームライブは楽しかった。

歌いながら踊るから、歌は生じゃないのかもしれない。
つーかそんな感じだった。

だけどあの空気感は、俺がずっと求めて止まないものだった。
ステージと客席が一体になる感触。
あの爽快感を俺はまだ覚えている。

それでも、もうベースを持つことはできない。
あの痛みをもう一度味わうなんてごめんだ。

「アンコール一曲目のさ、あのフレーズ良かったよね」

山都由真は歌い出した。

瞬間。


――こんばんはー! ノイズです!


光に包まれる姿が浮かんだ。
俺は思わず足を止める。

「ジョージ?」
「おまえ……ノイズのヤマトかよ!」

忘れるはずがない。
ノイズはムジカで歌ってるバンドの中でも、一番人気のバンドだった。

ボーカルは小学生ながら、大人顔負けの歌唱力で、並みの歌手よりうまいんじゃないかと言われていた。

なんで今まで気づかなかったんだ。

「いま気づいたの!?」

うん、いやまぁその反応は当然なんだけど。

「……名前と顔が一致してなかった。ノイズのボーカル、イコールヤマト。ボーカルの名前知らなかったし、ヤマトって男だと思ってたし」
「あー、たしかにね。じゃあドラムのミサトは女だと思ってた?」

図星だ。

あの頃の俺は自分のことばっかに必至で、周りのことが見えてなかったのだ。
それでもノイズの人気っぷりは知っていた。
ムジカの客の八割はノイズ目当てだって言われてた。

俺は自分のバンドのことにかかりっきりで、その姿をちゃんと見たことはなかったのだ。
だけど名前だけは知っていた。

「なになに? バンドやりたくなった?」

にっと笑って山都由真は言う。
俺はただ立ち尽くしてそれを見ていた。

「じゃあさ、スコアの最後のステージ知ってんだろ? いや、スコアのじゃないな……。俺の最後のステージだ」

山都由真は笑みを引っ込めて俺を見ていた。
当たりだ。
あの日、俺たちのバンドの次はノイズだった。

山都由真は知っているはずだ。
あの、最悪のステージを。

「もうあんな思いはしたくないんだ。バンドは諦めてくれ」

山都由真はなにも言わなかった。

それから俺たちは、家に辿り着くまで一言も喋らなかった。