Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する

映画が始まる。

ソファに並んで座る二人。
今日は最初から距離が近い。

希は少し体が重く、自然に旬の肩にもたれる。
旬は一瞬だけ動きを止める。
でも何も言わず、そっと腕を回す。

体温が伝わる。
安心する匂い。
映画の音が遠くなる。

希の呼吸がゆっくりになり、眠ってしまう。
旬は画面を見ながら、彼女の重みを感じる。
(こういう時間が欲しかった)
自分もいつの間にか目を閉じる。


目が覚めると、画面にはエンドロール。
外には夕方の光が差し込む。

二人同時に目を開ける。
数秒、状況を理解する。

そして、自然と笑いがこぼれる。

「…寝ちゃったね」

声が重なり合う。
こんなに自然に笑える人、
いつぶりだろう。

夜。

希はまたキッチンに立つ。
今日は温かい煮込み。
旬は後ろから、そっと見ている。

小さな背中。
守りたいと思う。
(俺のこと、受け入れてくれるかな)

食事のあと、ドラマの時間。
少し切ないラブストーリー。
クライマックス、静かな告白のシーン。

隣で、希が黙っている。
涙。
声を出さずに、静かに泣いている。

旬は何も言わない。
そっとティッシュを差し出す。
希は少し笑う。

「最近、涙腺弱くて」

冗談。
でも本当は違う。
“言葉にしてほしい”物語。
ちゃんと名前をつけてもらう関係。
それが、羨ましい。

旬は気づいている。
もう少し待って。
ちゃんと準備している。
だから今日は、ただ優しくする。

そっと手を握る。
強くしない。
でも、離さない。

その夜。
旬が帰ったあと、希は非公開アカウントを開く。

《今日、彼の肩で寝た。
 起きたらエンドロールで、笑った。
 幸せって、こういうのかもしれない。
 でも、名前が欲しい。
 私は欲張りかな。》

旬はまだ知らない。