Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する

一方、希。

夜中、鍵垢の日記に向かって指を動かす。

《もうすぐ3ヶ月。
 まだ名前がない関係。
 でも、毎日が優しい。
 ちゃんと好きになってる。
 彼はどう思ってるんだろう。
 私だけだったらどうしよう。》

心の中に、小さな不安がある。
言葉にしていないから。

“好き”も、“付き合おう”も。
体もまだ重ねていない。
でも、心はもうほとんど預けている。


ドライブの帰り道。
オレンジに染まる夕焼けの中で、希が何気なく言う。

「私たちってさ…んー、なんでもない」

その軽い言葉に、旬の胸が一瞬止まる。

(今じゃない)

旬は準備している。
ちゃんとした形で、
ちゃんと伝えられるその瞬間まで。

「大事な人」

それが、今の彼の答え。

希は微笑む。
でも、胸の奥にほんの少しだけ、
揺れる気持ちが残る。

そして、告白の夜はすぐそこまで。
ネックレスは、旬のデスクの引き出しの中。
箱を開けるたび、決意が固まる。

彼はまだ知らない。
希が毎晩、名前のない関係に少しだけ揺れていることを。

静かで、けれど確かに進んでいる時間。
二人の心は、少しずつ重なり合っていく。