Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する

映画の日から、もうすぐ一週間。

希は、仕事に追われていた。

撮影用のレシピ。
締切。
修正。
買い出し。

頭の中は常に段取りでいっぱい。

会いたい。

でも。

遅い時間に会いたいなんて、言えなかった。

そんな甘え方は、まだ早い気がした。

メッセージは相変わらず多くない。

けれど、毎日続く。

天気。

景色。

今日の小さな出来事。

「今日もお疲れさま」もない。

でも、ちゃんとそこにいる。

それが、安心だった。


包丁を置き、手を洗い、
スマホを見る。

通知。

旬から。

【次のお休みはいつですか?】

少しだけ鼓動が早くなる。

【日曜日です】

すぐに返信してしまう。

間をあける余裕なんてなかった。

数秒後。

【会う時間、ある?】

真っ直ぐ。

回り道なし。

希は、一瞬考える。

その日は、料理の仕事の試作をしようと思っていた。

雑誌の企画。

「彼に振る舞うおつまみ」

テーマは、
“あなたを迎えるキッチン”。

ひとりで作って、
ひとりで味見して、
感想をメモして終わる予定だった。

でも。

一緒に食べたいな。

その言葉が、胸に浮かぶ。

指が動く。

【うち、きます?】

送信。

固まる。

(早い?)

(家って、距離近すぎる?)

既読。

数秒。

長い。

驚くほど長い。

頭の中で、いくつもの可能性がよぎる。

断られたらどうしよう。

重いって思われたら。

——返信。

【いく】

即答。