Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する

その夜。

希はベッドに横になり、
天井を見つめたまま目を閉じる。

静かな部屋。

時計の針の音だけが、やけに大きい。

映画のラストシーンが思い出せない。

確か、海辺だった気がする。

風が吹いて、
誰かが振り返って——

……そこで途切れる。

代わりに思い出すのは、

暗闇の中で触れた肩。

ほんの数センチの距離。

一度、離れたこと。

そして。

離さなかった温度。

そっと戻された、あの感触。

強くもなく、弱くもなく。

ただ、そこにあるという確認。

(危ないな)

小さく、天井に向かって呟く。

こんなに緊張したのは、いつぶりだろう。

仕事のプレゼンでもない。

大きな契約でもない。

ただ、隣に座っているだけなのに。

心臓がうるさくて、
呼吸が浅くなって。

——大人なのに。

インスタの日記をつける

誰にも見せることのない

自分の為だけの日記


写真は映画の半券


旬さんが選んでくれた映画
とても綺麗な映画だった

……けど旬さんが隣にいる緊張で
内容が全く入ってこなかった。



書いて、止まる。


少しだけ迷う。

それから、小さく付け足す。

-好き、なのかな。

自分で書いた言葉なのに、
他人のものみたいだ。

恋愛からは、遠ざかっていた。

忙しいを理由に。

守る人がいるを理由に。

傷つく時間がもったいないと、
どこかで思っていた。

でも。

肩の温度が、忘れられない。

「希さん。また会って貰えますか?」

あの声。

あの真面目な目。

スマホが小さく光る。

メッセージはない。

でも、画面に映る彼の名前を見るだけで、
胸がまた少し鳴る。

(危ないな、本当に)

インスタを閉じる


目を閉じる。

今度は、映画の映像ではなく——

ニット姿の彼の横顔が浮かぶ。

静かに、深く、近い。

好き、なのかな。

その答えはまだ書かれていない。

でも半券の余白は、

きっと、これから埋まっていく。