Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する

静かな本音。

店の音が遠くなる。

旬の口元が、わずかに緩む。

「安心しました」

「何がですか」

「僕だけが例外を考えてるわけじゃなさそうで」

目が合う。

柔らかい。

でも、逃げない。

ひとりが心地よかった二人。

“基本的に”ひとり。

けれど今夜は。

その基本が、少し揺れている。

例外の気配が、

静かに、確実に、生まれていた。


酔っているわけじゃない。

でも、空気は確実にやわらいでいる。

さっきまであった慎重さが、
少しだけほどけた。

距離は縮んだ。

旬がグラスを置く。

「お仕事、お忙しいですか?」

穏やかな問い。

探るのではなく、知ろうとする声。

希は頷く。

「そうですね。一緒に頑張ってくれてる子達、守らないとだから」

さらっと言う。

でもそこには責任がある。

守る立場の人の目。

旬はその横顔を静かに見つめる。

「今、好きなひとは?」

唐突に見えて、自然な流れ。

核心。

希は少しだけ視線を落とす。

グラスの赤に、自分の影が揺れる。

「恋愛からは随分遠ざかってて」

静かな事実。

言い訳も、過去の説明もない。

それ以上は言わない。

旬も聞かない。

沈黙を尊重する。

そして、静かに言う。

「じゃあ、僕にも可能性はあるかな」

冗談の顔。

口元はやわらかい。

でも、目は本気。

逃げ道を作らない問い。

希の心臓が、どくん、と鳴る。

ワインのせいじゃない。

この人のせいだ。

グラスを持ち上げる。

時間を少しだけ稼ぐ。

「それは、これから次第ですね」

微笑む。

完全な拒否でも、肯定でもない。

でも——扉は閉めていない。

旬の目がわずかに光る。

「これからは名前で呼んでほしいな」

不意打ち。

距離を一段、縮める言葉。