旬がいつもより早く帰宅する。
「ただいま」
キッチンからすぐ声が飛ぶ。
「おかえり!」
明るい。
いつもの希。
エプロン姿で、振り向く。
火の音、いい匂い。
旬の足が一瞬止まる。
(戻ってる)
胸の奥が、ふっと緩む。
テーブルには料理が並んでいる。
想像以上。
「……多くない?」
希が笑う。
「ずっと料理してなかったから、反動」
「明日の分もあるね」
少し照れた顔。
「どうしよう、結婚式までに二人して太ってたら」
旬がネクタイを緩めながら言う。
「ドレス入らなくなったら俺のせいか」
「道連れだよ?旬もお腹出ちゃうかも。」
目が合う。
同時に笑う。
あの自然な笑い。
無理してない。
幸せ。
ワインを開ける旬。
グラスを二つ出す。
「希も飲む?」
一瞬、視線がリビングに向く。
ソファの横。
山積みの資料。
昨日までなら、あそこに座ってた。
でも今日は違う。
希は肩をすくめる。
「別に急ぎの仕事ないから飲む」
少しだけいたずらっぽく。
「酔ったらごめんね」
旬がグラスを渡す。
「いいよ。」
自然。
乾杯。
小さく音が鳴る。
他愛ない話。
スタッフのこと。
青山の照明の話。
結婚式の招待客の話。
旬がふと見る。
ワインでほんのり頬が赤い希。
よく笑う。
昨日泣いていた同じ人。
愛おしさが込み上げる。
「なに?」
視線に気づく。
「いや」
少しだけ近づく。
「可愛いなと思って」
希が照れる。
「昨日泣いたからスッキリしたのかも」
旬が小さく笑う。
「俺のシャツ、まだ乾いてない」
「ごめん」
でも笑ってる。
食後ソファに並んで座る。
資料はそのまま。
でも触らない。
希が少し酔って、旬の肩に寄りかかる。
自然に。
「ねぇ」
「ん?」
「昨日さ、片思いの時の方が繋がってる気がするって思ったけど」
旬の指が髪を撫でる。
「今は?」
希、目を閉じる。
「今の方があったかい」
旬の腕が静かに強くなる。
「それならよかった」
希がぽつり。
「旬がいてくれるなら、もう何でもいい」
昨日と同じ言葉。
でも今日は柔らかい。
依存じゃない。
信頼。
旬が低く笑う。
「危ないこと言うな」
「大丈夫」
希が見上げる。
「ちゃんと好きだから」
旬がキスする。
軽く。
ワインの味。
甘い夜。
資料は山積みのまま。
でも今日は触らない。
仕事より、隣。
笑いながら、
少し酔いながら、
ゆっくり時間が溶けていく。
幸せって、こういう夜。
希は少し酔って、
旬の肩にもたれたままうとうとしている。
ワインの余韻。
頬はほんのり赤い。
さっきまで笑っていたのに、
今は安心しきった顔。
旬はその横顔を見つめる。
胸が静かに痛む。
(俺のせいだ)
背中を向けた。
触れなかった。
抱きしめなかった。
たったそれだけで、
希は「嫌われた?」と思った。
どれだけ不安にさせたんだ。
旬はそっと腕を回す。
今度は迷わない。
ちゃんと引き寄せる。
希が目を細める。
「ん……」
眠そうに、でも嬉しそうに。
その反応が余計に刺さる。
(こんなに簡単なことだったのに)
抱きしめるだけ。
言葉より、温度だった。
小さな声で、旬が呟く。
「ごめん」
希は半分夢の中。
「なにが?」
「ちゃんと抱きしめなかった」
希が薄く笑う。
「今してくれてる」
それだけ。
責めない。
過去を蒸し返さない。
旬の胸がいっぱいになる。
(守るって、構えることじゃない)
(離さないことだ)
希の髪に顔を埋める。
深く息を吸う。
あったかい。
現実。
「次からは」
小さく誓う。
「不安にさせる前に抱く」
希がくすっと笑う。
「宣言?」
「義務」
「重い」
でも声は幸せ。
しばらくそのまま。
時間だけがゆっくり流れる。
旬は思う。
社長としては完璧を目指す。
でも夫としては、
完璧じゃなくていい。
毎晩ちゃんと抱きしめる。
それだけでいい。
希が完全に眠る。
体重を預けてくる。
旬はその重みを受け止める。
(もう背中向けない)
静かな決意。
柔らかい夜。
「ただいま」
キッチンからすぐ声が飛ぶ。
「おかえり!」
明るい。
いつもの希。
エプロン姿で、振り向く。
火の音、いい匂い。
旬の足が一瞬止まる。
(戻ってる)
胸の奥が、ふっと緩む。
テーブルには料理が並んでいる。
想像以上。
「……多くない?」
希が笑う。
「ずっと料理してなかったから、反動」
「明日の分もあるね」
少し照れた顔。
「どうしよう、結婚式までに二人して太ってたら」
旬がネクタイを緩めながら言う。
「ドレス入らなくなったら俺のせいか」
「道連れだよ?旬もお腹出ちゃうかも。」
目が合う。
同時に笑う。
あの自然な笑い。
無理してない。
幸せ。
ワインを開ける旬。
グラスを二つ出す。
「希も飲む?」
一瞬、視線がリビングに向く。
ソファの横。
山積みの資料。
昨日までなら、あそこに座ってた。
でも今日は違う。
希は肩をすくめる。
「別に急ぎの仕事ないから飲む」
少しだけいたずらっぽく。
「酔ったらごめんね」
旬がグラスを渡す。
「いいよ。」
自然。
乾杯。
小さく音が鳴る。
他愛ない話。
スタッフのこと。
青山の照明の話。
結婚式の招待客の話。
旬がふと見る。
ワインでほんのり頬が赤い希。
よく笑う。
昨日泣いていた同じ人。
愛おしさが込み上げる。
「なに?」
視線に気づく。
「いや」
少しだけ近づく。
「可愛いなと思って」
希が照れる。
「昨日泣いたからスッキリしたのかも」
旬が小さく笑う。
「俺のシャツ、まだ乾いてない」
「ごめん」
でも笑ってる。
食後ソファに並んで座る。
資料はそのまま。
でも触らない。
希が少し酔って、旬の肩に寄りかかる。
自然に。
「ねぇ」
「ん?」
「昨日さ、片思いの時の方が繋がってる気がするって思ったけど」
旬の指が髪を撫でる。
「今は?」
希、目を閉じる。
「今の方があったかい」
旬の腕が静かに強くなる。
「それならよかった」
希がぽつり。
「旬がいてくれるなら、もう何でもいい」
昨日と同じ言葉。
でも今日は柔らかい。
依存じゃない。
信頼。
旬が低く笑う。
「危ないこと言うな」
「大丈夫」
希が見上げる。
「ちゃんと好きだから」
旬がキスする。
軽く。
ワインの味。
甘い夜。
資料は山積みのまま。
でも今日は触らない。
仕事より、隣。
笑いながら、
少し酔いながら、
ゆっくり時間が溶けていく。
幸せって、こういう夜。
希は少し酔って、
旬の肩にもたれたままうとうとしている。
ワインの余韻。
頬はほんのり赤い。
さっきまで笑っていたのに、
今は安心しきった顔。
旬はその横顔を見つめる。
胸が静かに痛む。
(俺のせいだ)
背中を向けた。
触れなかった。
抱きしめなかった。
たったそれだけで、
希は「嫌われた?」と思った。
どれだけ不安にさせたんだ。
旬はそっと腕を回す。
今度は迷わない。
ちゃんと引き寄せる。
希が目を細める。
「ん……」
眠そうに、でも嬉しそうに。
その反応が余計に刺さる。
(こんなに簡単なことだったのに)
抱きしめるだけ。
言葉より、温度だった。
小さな声で、旬が呟く。
「ごめん」
希は半分夢の中。
「なにが?」
「ちゃんと抱きしめなかった」
希が薄く笑う。
「今してくれてる」
それだけ。
責めない。
過去を蒸し返さない。
旬の胸がいっぱいになる。
(守るって、構えることじゃない)
(離さないことだ)
希の髪に顔を埋める。
深く息を吸う。
あったかい。
現実。
「次からは」
小さく誓う。
「不安にさせる前に抱く」
希がくすっと笑う。
「宣言?」
「義務」
「重い」
でも声は幸せ。
しばらくそのまま。
時間だけがゆっくり流れる。
旬は思う。
社長としては完璧を目指す。
でも夫としては、
完璧じゃなくていい。
毎晩ちゃんと抱きしめる。
それだけでいい。
希が完全に眠る。
体重を預けてくる。
旬はその重みを受け止める。
(もう背中向けない)
静かな決意。
柔らかい夜。

