Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する

キスはゆっくり、深くなる。

久しぶりの熱。

希の指が、旬の肩にそっと力を込める。

離れたくない、みたいに。

唇が離れたあとも、額が触れたまま。

息が混ざる距離。

「……久しぶりだね」

希が小さく言う。

旬の親指が、頬をなぞる。

「引っ越しも、仕事も、ずっとバタバタだったからな」

声が少し低い。

抑えていたものが滲む。

希が見上げる。

「ちゃんと見てくれるって言ったよね」

その言葉に、旬の目が変わる。

ソファーにゆっくり押し倒すわけじゃない。

でも自然に、体勢が入れ替わる。

希の髪がクッションに広がる。

旬の手が、背中に回る。

強くない。

けれど、逃げ道はないみたいな抱き方。

「広告のときより緊張してる」

旬が言う。

希、笑う。

「嘘」

「本当」

指が、ゆっくり背中をなぞる。

布越しの体温。

触れ方が丁寧で、余計に熱い。

「旬…」

名前を呼ぶ声が、少し震える。

「ん?」

「ちゃんと綺麗?」

即答。

「ずっと綺麗だよ」

キスが首筋に落ちる。

急がない。

確かめるみたいに。

希の手が旬の背中に回る。

離れていた時間を埋めるみたいに。

旬が低く言う。

「今はただ、俺の希」

その言葉に、胸がきゅっとなる。

希が小さく笑う。

唇がまた重なる。

今度は少し長く。

深く。

久しぶりの温度が、ゆっくり上がっていく。

間接照明の下で、

仕事の顔も、成功も、全部脱いで。

ただのふたり。

静かな部屋に、息遣いだけが残る。

甘くて、

優しくて、

間接照明は、いつの間にか消えていた。

カーテンの隙間から、街の遠い光だけがわずかに差し込む。

ソファーから寝室へ移る足音も、どこか静かで、どこかぎこちない。

触れ方を思い出すみたいに、
確かめ合うみたいに。

ベッドに腰を下ろしたとき、
希が小さく笑う。

「なんか緊張するね」

旬も、少しだけ笑う。

「初めてみたいだな」

その言い方に、希の頬が熱くなる。

触れる指先は、急がない。
急がせない。

キスは深くなるけれど、
どこか優しい。

離れていた時間を埋めるというより、
ちゃんと“今”を重ねていく感じ。

希の手が旬の首の後ろに回る。

「ちゃんと見てる?」

ささやく声。

「見てる」

「どこを?」

「全部」

その答えに、希は少しだけ照れた顔で笑う。

布の擦れる音。
重なる体温。

言葉は減っていく。

代わりに、呼吸と鼓動が近づく。

夜はゆっくり深くなっていく。

甘さは強くなるけれど、
荒くはならない。

何度もキスをして、
何度も名前を呼んで。

途中で、ふたりで笑ってしまったり。

そんな小さなやりとりさえ、
愛おしい。

気づけば、時計はもう深夜を越えている。

静かな部屋に、
余韻だけが残る。

旬が希を抱き寄せる。

「寝るか?」

希は首を振る。

「もう少し」

腕の中で、
体温を分け合うみたいに寄り添う。

やがて空が少しずつ白む。

カーテン越しの光が、
やわらかく部屋を満たす。

希は旬の胸に頬を預けたまま、
うとうとと目を閉じる。

「朝だね」

「ん」

「今日、仕事だよ?」

「知ってる」

でも、どちらも離れない。

成功の夜でも、
情熱の夜でもなく。

ただ、

一緒に朝を迎える夜。

希が小さくつぶやく。

「やっぱり、旬が一番」

旬は、寝ぼけた声で。

「知ってる」

朝の光の中、
ふたりは少しだけ笑う。

静かで、
甘くて、
満たされた朝。