Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する

引越しを終えたばかりの新しい部屋。

前はどこか無機質だった空間が、
今はすっかり希のインテリアに変わっている。

柔らかい間接照明。
淡いグレージュのソファ。
ガラス花瓶にさした枝もの。

“整っているのに、どこかあたたかい”

まさに希そのもの。

旬がキッチンから顔を出す。

「おかえり」

希、ヒールを脱ぎながら小さく息を吐く。

「ただいま」

その声で、旬は何かを察する。

「何かあったな」

希、ソファに座る。

少しだけ社長の顔を外した表情。

「今日ね、商品開発会議だったの」

旬、隣に座る。

距離は自然。

「うん」

「リニューアル案、通った」

旬、すぐに。

「だろうな」

迷いのない声。

希、少し笑う。

「でもね」

一拍。

「広告モデル、私がやったらどうかって言われた」

沈黙。

部屋の間接照明が静かに落ち着いている。

旬、すぐには答えない。

希、続ける。

「ブランド体現してるのが私だからって」

「話題性あるって」

「説得力あるって」

少し視線を落とす。

「どう思う?」

旬は希を見る。

仕事モードではない、

少しだけ迷っている顔。

「希はどうしたい」

質問で返す。

希、すぐに答えられない。

「戦略としてはアリだと思う」

「でも、前に出る覚悟があるかって言われたら…」

旬、静かに。

「怖いか」

希、素直に。

「少し」

沈黙。

旬がゆっくり言う。

「俺は反対しない」

希、顔を上げる。

「でも、勧めもしない」

「決めるのは希」

一拍。

「ただ」

少しだけ距離が近づく。

「“着ててなんかいいな”を一番理解してるのは希だよ」

「それを表現できるのも」

「たぶん希」

部屋の空気が柔らかくなる。

希、小さく笑う。

「社長として?」

旬、首を振る。

「女として」

静かに言う。

「今日のプレゼン後の顔、想像つく」

「自信あっただろ」

希、図星。

「…うん」

「その顔が出るなら、やればいい」

派手じゃなくていい。

媚びなくていい。

“自然に惹かれる”

それを体現する。

希、ゆっくり息を吐く。

「もしやるなら」

旬「うん」

「中途半端にはやらない」

旬、微かに笑う。

「それが希」

部屋を見渡す。

自分が整えた空間。

自分が作るブランド。

自分が着るランジェリー。

希、立ち上がる。

「ちょっとサンプル持ってくる」

旬、目を細める。

「今か」

希、振り向く。

「社長、検証中です」

旬、低く笑う。

「協力する」

間接照明の中。

“着ててなんかいいな”が

少しだけ現実に近づく夜。