けれど——
今、この瞬間。
希の目は、旬しか見ていない。
それだけで、十分だと思えた。
「歩が日本にいる間、1回会ってくるよ」
希の声は、驚くほど落ち着いていた。
揺れはない。
言い訳もない。
ただ、決めた人の声。
「近況報告会。古い友人として」
旬は何も言わない。
言えない、のほうが正しい。
胸の奥が、わずかにきしむ。
希は続ける。
「今まで歩がどうやって生きてきたか、全然知らないし」
そこに未練はない。
視線はまっすぐで、遠くを見ているわけでもない。
ただ、時間の空白。
北海道の車内で軽く口にした“ロンドン”。
あのときは、ただの思い出話だった。
でも今は違う。
ちゃんと終わらせるための整理。
過去をきれいに畳むための、一度きりの再会。
少し沈黙が落ちる。
静かな部屋に、ふたりの呼吸だけがある。
そして——
「終わったら、迎えに来てくれる?」
旬の心臓が、どくん、と強く鳴る。
希は基本、強い。
自分で決めて、自分で歩く。
誰かに寄りかからない。
一度も「迎えに来て」なんて言ったことがない。
今、言った。
旬はゆっくり体を起こす。
「……迎え?」
確かめるみたいに。
希は少し照れた顔で笑う。
「うん」
まっすぐ、でも少しだけ甘い。
「たぶん大丈夫だけど」
そこで、ほんの少しだけ間ができる。
強い希が見せる、ほんのわずかな余白。
「でも、終わったあと、旬の顔見たい」
それが本音。
飾らない。
その一言で、旬の胸の奥が一気に熱くなる。
嫉妬でも、不安でもない。
守りたい、が真っ直ぐ立ち上がる。
「行きも送ってく」
即答。
声が、少し低い。
覚悟の声。
「待ってるから」
「待っててね」
迷いゼロ。
希はもう、戻る場所を決めている。
旬は小さく笑う。
「俺、目の前で待ってるかもしれない」
「え、やだ」
希が吹き出す。
その笑いは、柔らかい。
さっきまで部屋に漂っていた緊張を、ゆっくり溶かす。
不安はない。
あるのは、整理。
そして、未来を選ぶための小さな儀式。
旬は希を抱きしめる。
強く。
独占じゃない。
縛るためでもない。
“戻ってくる場所”として。
希はその腕の中で、静かに息をつく。
安心している。
決意している。
その夜、ふたりは静かに眠る。
ぴたりと寄り添いながら。
でも——
それぞれ、少しだけ緊張を抱えたまま。
終わらせる夜と、
始まる朝のあいだで。
今、この瞬間。
希の目は、旬しか見ていない。
それだけで、十分だと思えた。
「歩が日本にいる間、1回会ってくるよ」
希の声は、驚くほど落ち着いていた。
揺れはない。
言い訳もない。
ただ、決めた人の声。
「近況報告会。古い友人として」
旬は何も言わない。
言えない、のほうが正しい。
胸の奥が、わずかにきしむ。
希は続ける。
「今まで歩がどうやって生きてきたか、全然知らないし」
そこに未練はない。
視線はまっすぐで、遠くを見ているわけでもない。
ただ、時間の空白。
北海道の車内で軽く口にした“ロンドン”。
あのときは、ただの思い出話だった。
でも今は違う。
ちゃんと終わらせるための整理。
過去をきれいに畳むための、一度きりの再会。
少し沈黙が落ちる。
静かな部屋に、ふたりの呼吸だけがある。
そして——
「終わったら、迎えに来てくれる?」
旬の心臓が、どくん、と強く鳴る。
希は基本、強い。
自分で決めて、自分で歩く。
誰かに寄りかからない。
一度も「迎えに来て」なんて言ったことがない。
今、言った。
旬はゆっくり体を起こす。
「……迎え?」
確かめるみたいに。
希は少し照れた顔で笑う。
「うん」
まっすぐ、でも少しだけ甘い。
「たぶん大丈夫だけど」
そこで、ほんの少しだけ間ができる。
強い希が見せる、ほんのわずかな余白。
「でも、終わったあと、旬の顔見たい」
それが本音。
飾らない。
その一言で、旬の胸の奥が一気に熱くなる。
嫉妬でも、不安でもない。
守りたい、が真っ直ぐ立ち上がる。
「行きも送ってく」
即答。
声が、少し低い。
覚悟の声。
「待ってるから」
「待っててね」
迷いゼロ。
希はもう、戻る場所を決めている。
旬は小さく笑う。
「俺、目の前で待ってるかもしれない」
「え、やだ」
希が吹き出す。
その笑いは、柔らかい。
さっきまで部屋に漂っていた緊張を、ゆっくり溶かす。
不安はない。
あるのは、整理。
そして、未来を選ぶための小さな儀式。
旬は希を抱きしめる。
強く。
独占じゃない。
縛るためでもない。
“戻ってくる場所”として。
希はその腕の中で、静かに息をつく。
安心している。
決意している。
その夜、ふたりは静かに眠る。
ぴたりと寄り添いながら。
でも——
それぞれ、少しだけ緊張を抱えたまま。
終わらせる夜と、
始まる朝のあいだで。
