いつもと同じ匂い。
柔らかい甘い香りと、ほのかなコーヒーの残り香。
いつもと同じソファ。
いつもと同じ距離。
なのに——
今日は、空気が違う。
静かすぎる。
旬は、あまり喋らない。
スマホを触るわけでもない。
不機嫌な顔をするわけでもない。
ただ、静か。
その沈黙が、いちばん重い。
希は気づいている。
ああ、これ嫉妬だ。
歩のこと。
あの自然な呼び捨て。
迷いのない「希」。
共有してきた時間が滲む視線。
旬は何も聞かない。
「昔どんなだったの?」も。
「まだ好きなの?」も。
何も。
それが、余計に苦しい。
聞いてくれたら、否定できるのに。
抱きしめてくれたら、安心できるのに。
希はソファの端に座り、旬を見る。
横顔は穏やか。
でも、どこか遠い。
胸が、ざわつく。
——どうしたらわかってくれるの?
口には出さない。
でも、心の中で何度も繰り返す。
私はあなたを選んでるのに。
あの名刺だって、
受け取ったのは礼儀。
連絡なんて、するはずない。
今、隣にいるのは旬なのに。
沈黙に耐えきれず、
希はわざと明るい声を出す。
「今日もお客さん沢山来てくれたよ!」
「うん」
短い返事。
それだけ。
胸が、きゅっと縮む。
希は立ち上がり、キッチンへ向かう。
背中越しに感じる、旬の視線。
振り向きたい。
でも、振り向かない。
強い女でいたい。
でも本当は、
今すぐ後ろから抱きしめてほしい。
私はここにいるよって、
ちゃんと選んでるよって、
言わなくても、わかってほしい。
そんなわがままを、
飲み込む。
旬が、急に希の腕を引いた。
強くはない。
でも、迷いがない。
そのまま、身体ごと引き寄せる。
いつもより、深く。
距離が一気に縮まる。
体温が、逃げ場をなくす。
呼吸が、同じ速さになる。
希は一瞬、驚く。
旬は、あまり感情を露わにしない人だから。
首元に、旬の顔が埋まる。
シャツ越しに伝わる、熱い息。
低い声が、こぼれる。
「……俺、だめかも」
それだけ。
情けないわけじゃない。
ただ、正直。
希の胸が、きゅっとなる。
ああ。
この人も、ちゃんと不安になるんだ。
私だけじゃなかった。
その事実が、胸の奥をあたたかくする。
柔らかい甘い香りと、ほのかなコーヒーの残り香。
いつもと同じソファ。
いつもと同じ距離。
なのに——
今日は、空気が違う。
静かすぎる。
旬は、あまり喋らない。
スマホを触るわけでもない。
不機嫌な顔をするわけでもない。
ただ、静か。
その沈黙が、いちばん重い。
希は気づいている。
ああ、これ嫉妬だ。
歩のこと。
あの自然な呼び捨て。
迷いのない「希」。
共有してきた時間が滲む視線。
旬は何も聞かない。
「昔どんなだったの?」も。
「まだ好きなの?」も。
何も。
それが、余計に苦しい。
聞いてくれたら、否定できるのに。
抱きしめてくれたら、安心できるのに。
希はソファの端に座り、旬を見る。
横顔は穏やか。
でも、どこか遠い。
胸が、ざわつく。
——どうしたらわかってくれるの?
口には出さない。
でも、心の中で何度も繰り返す。
私はあなたを選んでるのに。
あの名刺だって、
受け取ったのは礼儀。
連絡なんて、するはずない。
今、隣にいるのは旬なのに。
沈黙に耐えきれず、
希はわざと明るい声を出す。
「今日もお客さん沢山来てくれたよ!」
「うん」
短い返事。
それだけ。
胸が、きゅっと縮む。
希は立ち上がり、キッチンへ向かう。
背中越しに感じる、旬の視線。
振り向きたい。
でも、振り向かない。
強い女でいたい。
でも本当は、
今すぐ後ろから抱きしめてほしい。
私はここにいるよって、
ちゃんと選んでるよって、
言わなくても、わかってほしい。
そんなわがままを、
飲み込む。
旬が、急に希の腕を引いた。
強くはない。
でも、迷いがない。
そのまま、身体ごと引き寄せる。
いつもより、深く。
距離が一気に縮まる。
体温が、逃げ場をなくす。
呼吸が、同じ速さになる。
希は一瞬、驚く。
旬は、あまり感情を露わにしない人だから。
首元に、旬の顔が埋まる。
シャツ越しに伝わる、熱い息。
低い声が、こぼれる。
「……俺、だめかも」
それだけ。
情けないわけじゃない。
ただ、正直。
希の胸が、きゅっとなる。
ああ。
この人も、ちゃんと不安になるんだ。
私だけじゃなかった。
その事実が、胸の奥をあたたかくする。
