Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する

初めて見る。

でも、知っている。

この男の存在は、
希から聞いていた。
空気ごと、胸のどこかにずっとあった。

歩は、静かだ。

無駄に笑わない。

希を見る目が、深い。

そこにあるのは、
一緒に過ごした時間の厚み。

旬の胸が、ぎゅっと締まる。

歩が言う。

「希、変わらないね」

懐かしむように。
確信を持って。

希が笑う。

その笑顔が、ほんの少しだけ柔らかい。

——それが、刺さる。

旬は、表情を崩さない。

「初めまして。」

自分の声が、思ったより落ち着いていることに驚く。

「はじめまして。三浦です」

短い。余裕。

肩書きも、自慢もない。

それが逆に、揺るがない自信を感じさせる。

圧迫感はない。

なのに。

旬の中で、何かが崩れる。

——もし。

——もし、この男が帰国していたら。

——もし、あの時ロンドンに行かなかったら。

——もし、「もう待たないで」と言わなかったら。

希の隣に立っているのは、
自分じゃなかったかもしれない。

そんな可能性が、
一瞬で頭をよぎる。

悔しい。

知らなかった時間があることが。

希が泣いた夜を、
この男は知らないはずなのに。

それでも、
共有してきた過去があることが。

旬は、ゆっくり息を整える。

今、希の隣にいるのは、自分だ。

それは事実。