Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する

その時。

背後から、低い声。

「希」

振り向かなくてもわかる。

旬。

スーツ姿。

仕事の空気をまとったまま、
まっすぐこちらに歩いてくる。

歩の視線が、旬へ移る。

一瞬で、理解する。

——この男が、今の希の隣。

旬も、同じだ。

——これ、ロンドンの男か?

言葉はなくても、分かる。

空気の張り方で。
視線の強さで。

旬は、希の隣に自然に立つ。

触れはしない。
でも、距離はゼロ。

「知り合い?」

穏やかな声。

希は一瞬迷い、そして頷く。

「……高校の先輩」

歩が、わずかに目を細める。

「まぁ、先輩。か」

その一言に、空気がさらに薄くなる。

旬は、表情を崩さない。

「初めまして」


それだけ。

肩書きは言わない。

けれど、その静かな自信が、
今の立場を物語っている。

希の鼓動が、うるさい。

過去と現在が、
同じ空間に立っている。

白い壁。
淡い布。
甘い香り。

その中心で、
三人の時間だけが、ゆっくりと軋んでいる。