Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する

きっかけは、小さな危機だった。

Minoに、海外展開の話が持ち上がる。

大手企業からの出資提案。
条件は悪くない。むしろ、かなりいい。

資金も、販路も、一気に広がる。

でも。

契約書の細部に、わずかな一文。

——ブランド戦略に関する協議権。

世界観に、ほんの少しだけ口を出される可能性。

圭祐は慎重だった。

「今はまだ早い」

数字を並べながら、淡々と言う。

希は迷っていた。

広げたい気持ちもある。
挑戦したい気持ちもある。

その夜。

希は旬にぽつりと聞いた。

「どう思う?」

旬は、すぐには答えなかった。

経済誌の記事。
圭祐の理論。

全部を思い返す。

そして、ゆっくり言う。

「やらないほうがいい」

希が顔を上げる。

「なんで?」

「焦ってるときの拡大は、だいたい後悔する」

静かな声。

希は黙る。

旬は続ける。

「今のMinoは“選ばれてる”ブランドだろ」

「うん」

「追われる側でいないと」

その言葉が、部屋に落ちる。

「追いかける側に回ると、ブレる」

希の胸に、すとんと落ちた。

焦りが、静まる。