どうか、成仏してください!

 毎日行われる成仏対決。その主な舞台となっているのは、華の通っている私立青蘭高等学校である。文武両道を謳っており、偏差値が高いが学校行事はそこそこ立派。

 (まあ、この辺りは比較的、幽霊が少ないから入学したんだけど)

 ーーガラガラ

 華の対決の舞台である高校の解説が終わったところで、教室の引き戸が開く音と女子の華やいだ声が聞こえた。

 「(つかさ)くん、放課後時間ある?」

 「一緒に遊びに行こ〜」

 「司くんが行くなら私も行きたーい!」

 登校したばかりなのに、放課後の話をしている方に目を向けると、案の定、女子の集団があった。

 「相変わらず人気だね、女子が群がってる」

 そう言って、感心しているような、呆れているような顔をしているのは花里瑠夏(はなさとるか)。黒縁メガネがトレードマークの、いかにも優等生といった雰囲気だが、歯に衣着せぬ物言いをするため、結構辛辣だ。

 「ねぇ、あそこにも"あれ"多いの?」

 あれ、とは幽霊のこと。
 瑠夏とは幼馴染で、視えることも伝えている。華の良き理解者でもあるのだ。

 「うん、なんか最近多いんだよね」

 「ふーん。やっぱり原因はあれっぽいわね」

 「あれって…春野司(はるのつかさ)くんでしょ?一応、クラスメイトなんだから」

 「私、固有名詞って覚えられないの」

 「まったく…」

 やっぱり私の方がしっかり者だなぁ、と華は思っているが華も少し抜けている所があるので、実際のところは分からない。

 「でも、確かにおかしいんだよね…成仏させようとはしてるけど、なかなか春野くんから離れないっていうか…」

 「あいつが誑かしてんじゃない?」

 「たぶらかす…?幽霊を…?」

 「うん。なんかしてそうな顔してるじゃん」

 「いやいや、そんな事ある訳…」

 そう言って、ちらりと女子に囲まれている男子生徒を見る。
 スッと通った鼻筋に、切れ長の瞳が一見、冷たい印象を与えるが、泣きぼくろといつも浮かべている柔和な笑顔のおかげで、優しげに見える。

 「ないとは言えない」

 「でしょ?万人受けする顔してるしね。まあ、私は細過ぎてナヨナヨしてるなって思うけど」

 「そういえば、瑠夏のタイプって筋肉だっけ」

 「素晴らしい肉体美と言って」

 「あ、はい」

 「いい?私は筋肉の量を求めているのではないの。質よ、質」

 「なるほど」

 「その筋肉が躍動する瞬間、そこが1番…」

 こうなった瑠夏は止められない。
 長年の経験から察した華は、遠い目をしながらも春野に憑いている幽霊に首を傾げた。