「そんなこと言われたら、俺、どうにかなっちゃいそうなんだけど」
琴葉を抱きしめる腕の力が、強くなった。
「・・・・・・分かってる?」
琴葉は理玖の背中に手を回し、顔を肩に埋める。理玖の体温を、より近くで感じるために。
「・・・・・・はい。そういう理玖くん――もっと見たいから」
琴葉の声は、蚊の鳴くような声だった。理玖は、固まったように動かない。
しばらくしてから、理玖が息を吐く大きな音が聞こえた。
「煽ったの、琴葉だからね」
耳元で低く囁かれて、琴葉の身体がビクッと反応した。思わず顔を上げると、理玖の端正な顔が間近に迫っている。
声を発する暇もなく、口を塞がれる。息を奪われるような口づけに、頭が真っ白になった。
何度も角度が変わる口づけに必死になって応えていると、理玖の舌が琴葉の唇に触れた。
おずおずと僅かに口を開けると、理玖の舌が口内に侵入してきた。歯列をなぞられ、ゆっくり琴葉の舌に絡みついてくる。
「・・・・・・んっ・・・・・・ふっ・・・・・・」
舌が絡み合うたびに水音が響き、角度が変わるたびに琴葉の甘い声が洩れた。
頭がふわふわして、何も考えられない。縋りつくように理玖の腕を掴むと、理玖に優しく手を取られて、彼の首に導かれた。
逃がさない、と言わんばかりに琴葉の後頭部に手を添えた理玖は、より口づけを深めていく。琴葉は、理玖に触れられるたび、身体の奥まで熱くなっていく気がした。
身体中が熱くて、お互いの息遣いと琴葉の口から洩れる声だけが部屋に響く。外で降っているはずの雨の音は聞こえない。
気づいたら、琴葉の身体はソファに横たわっていた。理玖の右手は琴葉の頭を撫でている。激しい口づけとは裏腹に、理玖の手はとても優しい。
もっと、と思って、理玖の首に縋りついている手に力を込める。すると、一瞬、撫でる手を止めた理玖が、より深く絡みついてきた。
「・・・・・・んっ・・・・・・あっ・・・・・・」
息をつく暇もない口づけに、琴葉の頭が白んできた。
少し息苦しい。でも、止めないでほしい。
そんなことを頭の片隅で思っていると、理玖が離れていった。琴葉と理玖を繋ぐ、銀の糸をぼうっと眺める。
理玖は糸を絡みとるようにして琴葉に軽くキスをすると、首筋に顔を埋めた。理玖の唇が触れ、背中が言い様もないほどゾクゾクしてくる。身体中に電気が走ったような感覚に、琴葉は身をよじった。
はしたない声が出ないように必死に押し殺していると、理玖の唇が下がっていき、鎖骨の辺りに何度も口づけをされた。ピリッとした痛みが一瞬走り、理玖が上半身を起こす。
――あ、離れちゃう。嫌だなあ、もっと理玖くんと触れたい。
理玖をぼうっと見ながらそう思ったけれど、声は出てきてくれなかったし、手も動かない。こんな風に思うようになるなんて、思ってもみなかった。
「・・・・・・大丈夫?」
顔を覗き込まれ、優しく頬を撫でながら尋ねられる。まだ息が整っていない琴葉は、頷いた。
いつもだったら、琴葉の背中に理玖の腕が回り、優しく抱き起こされる。でも、この日は違った。
理玖が、琴葉の耳元に唇を寄せる。
「・・・・・・好きだよ」
吐息混じりに囁かれて、琴葉は思わず耳を塞いだ。横たわっているのに、腰が抜けそうになった。
そんな琴葉に、理玖は満足気に笑っている。立ち上がって琴葉を横抱きにすると、リビングの奥に進んで行った。
理玖の横顔を見上げながら、琴葉は静かに息を呑んでいた。心臓の音が、自分でもうるさいくらい鳴っている。
リビングの奥にあるのは理玖の寝室だ。ここには何度も訪れているけれど、寝室に足を踏み入れたことは一度もない。
理玖は丁寧な仕草で琴葉をベッドに下ろすと、布団をかけてくれた。シーツから、理玖の匂いがする。
理玖自身に包み込まれているような感覚になって、落ち着くけれど落ち着かない、不思議な気持ちになった。
「おやすみ」
そう言って優しく笑うと、琴葉の頬を一度撫でた。
理玖の指が離れていく。その瞬間、胸の奥がきゅっと苦しくなった。
「・・・・・・理玖くんは?」
「ん?俺はソファで寝るから、琴葉さんはベッド使って」
ゆっくり休んでね、と言い残して寝室から出て行こうとする理玖を、琴葉は服を掴んで引き止めた。
