お揃いの箸を使って餃子を食べる。同じものを選んで、同じものを食べているだけなのに、胸の奥がくすぐったくなった。
「チーズ美味しい。当たりかも」
「本当ですか?私、まだ食べてないです」
「じゃあ、半分あげる」
理玖が半分残った餃子を琴葉の口元に運ぶ。お礼を言って口に含めると、濃厚な肉汁とほどよくとろけるチーズが広がった。
「美味しいです!すっごく」
口に手を当てながら興奮気味に言うと、理玖が破顔した。
「可愛いね。次も出たらあげるよ」
理玖が目を細めて、じっとこちらを見ていた。その視線に気づいた瞬間、心臓がドキン、と跳ねる。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。餃子を食べ終わって、肩を並べて片付けていたら、そろそろ帰らなければならない時間が迫ってきた。
窓の外は相変わらず雨が降り注いでいて、止む気配はない。それどころか、雨の勢いは増す一方だった。
一緒にいられる時間が長かった分、いつもより離れ難く思う。
――もっと一緒にいたいなあ
そう思ってしまう自分に気づいて、少しだけ視線を落とした。困らせてしまうと分かっているから――その言葉は、胸の奥にそっと押し込める。
「・・・・・・琴葉さん、どうかした?」
「あ、いえ、何でもないです」
慌てて顔を上げて笑顔を浮かべる。理玖は何か言いたげにしていたけれど、何も言わずに琴葉の頭を撫でた。
「・・・・・・おいで」
理玖が優しく微笑んで、手を広げる。その姿を見たら、胸の奥に押し込めたはずの思いが熱い塊となって口から出てきてしまいそうになった。
それをもう一度押し込めるために、琴葉は勢いよく理玖の手の中に飛び込む。しっかりと抱き留められて、理玖の温もりに包まれた。
――あ。
理玖の鼓動が、速い。その音を聞いていたら、たまらない気持ちになった。
「・・・・・・電車の時間調べるからさ、ギリギリまでここにいてくれる?」
「・・・・・・はい」
離れ難いと思っているのは、理玖も同じなのかもしれない。そうなのだとしたら、凄く嬉しい。
そうだったら良いな、と思いながら、理玖の背中に回している腕に力を込める。理玖も、琴葉が苦しくないように加減されているけれど、力強く抱きしめ返してくれた。
「わっ」
しばらく理玖の鼓動に耳を澄ませていたら、突然抱き上げられた。理玖は無言のまま琴葉をソファまで運び、自分の足を琴葉に跨がせる形で座る。
「理玖くん?」
「このまま俺に抱きついてて」
ソファの上で抱き合っているような体勢になって、さっきまで感じていた寂しさが吹っ飛んで、途端に落ち着かなくなった。理玖は器用に片手で琴葉を抱きしめたまま、スマホを操作する。
――と。
え!?と、理玖が珍しく焦った声を出す。何があったのだろうと思ったら、理玖がスマホの画面を見せてきた。
そこにある文字を見た時、琴葉は息を呑んだ。画面を凝視したまま、離せない。心臓が一度ドクン、と大きく鳴った。
「電車、動いてないみたい」
「・・・・・・そう、ですね」
答える声が、少し掠れた。
琴葉の使っている路線だけでなく、全ての路線で運転見合わせになっている。運転の再開目途は立っておらず、外からは相変わらず激しい雨音が響いてきていた。
二人とも、しばらく何も言わなかった。
理玖の腕だけが、琴葉を抱きしめたまま離れない。
