ドキドキを通り越して心臓が痛い。窓の外では、アスファルトを叩くような激しい雨音が響いている。その音と、自分のうるさいくらい高鳴る鼓動だけが、世界に残っているような気がした。
「・・・・・・琴葉さん」
名前を呼ばれると同時に、理玖の腕に力が入った。理玖の温もりと匂いをより近くに感じて、心臓が止まるかと思った。ブランケットの中で、重なり合った二人の体温が上がっていく。
「前から思ってたけど、首、弱いでしょ?」
耳元で衝撃的なことを囁かれて、びくりと肩が跳ねた。耳を塞ぎたくて、真っ赤になっているであろう顔も隠したいのに――手はブランケットの中で、どうすることもできない。。
息を呑んだ琴葉をよそに、理玖は唇を琴葉の耳から離して、首筋に添えた。触れるか触れないかの距離で、吐息が首にかかる。それだけで背中がゾクゾクして、声にならない声が出てしまいそうだった。
「・・・・・・っ、理玖くん」
「どうしたの?」
琴葉、と追い打ちのように耳元で囁かれて、琴葉は身体から力が抜けた。
自分では身体を支えきれなくなってしまい、理玖の身体に寄りかかる。理玖は琴葉を受け止めて包み込んでくれた。
「ふふ、琴葉さん、すごくドキドキしてる」
声色は優しくて甘いのに、どこか楽しそうで、少しだけ意地悪だ。
「耳まで真っ赤だよ」
そう言われて、さらに顔が熱くなるのが分かった。琴葉は縋るように理玖の手に自分の手を添える。
「・・・・・・理玖くんの、せい、ですからね」
振り返るようにして見上げると、理玖が一瞬だけ目を見開いた。それから、ふっと嬉しそうに微笑む。
「うん。俺のせい。だから――」
ちゅ、と軽く唇が触れる。
「俺以外に、そんな可愛い顔、見せないでね」
今度は少し長く、唇が重なった。
*****
「琴葉さん、そろそろお皿用意してくれる?」
「はい」
理玖がホットプレートから蓋を外す。琴葉は理玖にフライ返しを渡し、お皿を手に取った。
「美味しそうですね」
「うん。中身もバラバラだから食べるのが楽しみ」
フライ返しを使って餃子を買ってきたばかりのお皿に移す理玖の声は弾んでいる。それを見て、琴葉の頬も緩んだ。
少し前まで、後ろから全身を理玖に包み込まれる体勢のまま、映画をひとつだけ見ていた。
背中に触れる体温と、時折かかる吐息が気になって、最初は内容がほとんど頭に入らなかった。
でも、時間が経つにつれて、その温もりが当たり前みたいに感じられて――気づけば、力が抜けて理玖に身体を預けていた。
窓の外では、相変わらず雨が降り続いている。
さっきまでソファで寄り添っていたのに、今は並んで餃子を包んでいるのが、少しだけ不思議で――同時に、どこかくすぐったかった。
他愛ない話をしながら餃子をひとつひとつ包んでいく作業はとても楽しい。理玖は何をしても器用にこなしていて、琴葉よりも餃子の形成が上手だった。
「それ、もう少し具が少ない方がいいんじゃないかな?」
「え、そうですか?」
「うん。ちょっと待ってね」
琴葉が包もうとしていた餃子の皮から、スプーンで餡を掬ってボウルに戻す。皮に理玖が指先で軽く押さえてくれて、綺麗に閉じることができた。
指先が触れた瞬間、その距離の近さに、また心臓が跳ねた。
「本当ですね。綺麗に包めました」
他愛ないやり取りなのに、どうしてこんなに楽しいんだろうと思う。
餃子の餡も、理玖の提案でチーズやエビ、大葉などいろいろな種類のものを作った。焼く時にバラバラに並べたので、どこに何があるかは食べるまで分からない。
食べる時のお楽しみも増えて、ずっと笑っているくらい楽しくて嬉しい。
ふと顔を上げると、理玖と目が合った。
「・・・・・・どうかしました?」
「いや、楽しそうだなって思って」
そう言って笑う理玖に、胸の奥がじんわりと温かくなった。
