週末のショッピングモールは、どこのお店に行ってもお客さんで賑わっていた。ウィンドウショッピングがてら、いろいろなお店を回る。
「人が多いね。琴葉さん、疲れてない?大丈夫?」
「大丈夫ですよ」
「ならよかった。でも、午後から雨が降るみたいだから、早めに買い物済ませて帰ろうか」
「はい」
キッチン用品を扱っているお店を回り、理玖が一人暮らしをする時に食器を揃えたというお店で琴葉の食器も購入した。
二人で一緒に、必要になりそうなものを相談しながら選んでいく時間はとても楽しかった。
「箸なんだけど、俺も新しいの買いたくて・・・・・・お揃いにしない?」
「ぜひ!見に行きましょう」
理玖がそう言ってくれたことが嬉しくて、琴葉は破顔した。そんな琴葉を見て、理玖も笑い返してくれたので、箸の並んでいるコーナーに向かう足取りが弾んだ。
「琴葉さんが気になった箸ある?」
「そうですね・・・・・・」
言いながら、一つに絞り切れていない琴葉は言い淀んだ。シックな黒と赤を基調として持ち手の方に金箔で桜の装飾があしらわれているものと、木を基調として持ち手の方が麻の葉の模様がついているものを交互に見て考え込む。
「俺はね、この二つが気に入ったよ」
理玖が手に取ったものは、琴葉が気になっていた桜の装飾があしらわれたものと、屋久杉の木を使用したシンプルなデザインのものだった。
「あ、私も桜の模様があるお箸気になってました」
「え、本当?」
「はい。シンプルなデザインできれいだな~と思いまして」
「そうだよね。琴葉さんっぽいし」
琴葉らしい、と言われて、琴葉は首を傾げた。どういう意味なのだろう。
「どんどん綺麗になっていくのに、笑うと花みたいな可憐さがあるから」
思わぬ言葉に目を丸くしながら、顔が熱くなっていくのが分かった。
「本当、目が離せない」
理玖が少しだけ困ったように呟くのが聞こえる。
こんな風に思われていたなんて知らなかった。琴葉だって――年を重ねるごとに魅力を増して精悍な顔つきになっていく理玖から目が離せないのに。
胸の奥にある気持ちは、こんなにもはっきりしているのに、言葉にしようとすると、どうしても零れてくれない。「これにしようか」と桜の模様の箸をカゴに入れる理玖に頷くことしかできなかった。
それから、ショッピングモールでお昼ご飯を食べてから、スーパーで買い物をして理玖の部屋へ向かった。
「雨が強くなる前に着いてよかった」
「はい。急に雨が強まりましたからね」
理玖のマンショのある最寄り駅に着いた時にはポツポツと雨が降っているだけだったのに、エントランスをくぐる頃には本降りになっていた。
「琴葉さん、身体冷えてない?」
「大丈夫ですよ」
「琴葉さんが帰る頃には止んでるといいんだけど」
そう言いつつ、理玖がブランケットを琴葉に渡してくれた。
「ありがとうございます」
「うん。温かいお茶淹れてくるから座って待ってて」
「手伝います」
キッチンへ向かおうとする理玖について行こうとしたら、理玖にやんわり制された。近くに置いてあった紙袋を渡される。
「琴葉さんはお皿出しておいてくれる?」
「分かりました」
「うん。お願いね」
ソファに座り、理玖が出してきてくれたブランケットを膝に掛ける。特に冷えていないと思ったけれど、自分の足に触れたら冷たかったので、理玖の気遣いをありがたく思った。
「お、ありがとう」
琴葉が紙袋から購入したお皿を取り出して、値札シールを剥がし終わる頃に理玖がマグカップを二つ持って戻ってきた。
「こちらこそ、ありがとうございます」
「うん。どうぞ」
そう言って、マグカップを琴葉の前に置いてくれる。隣に腰掛けた理玖は、琴葉の肩に触れるくらい近くにいて、琴葉は心臓がドキンと強く鳴った。
「・・・・・・理玖くん、寒くないですか?」
「ん?・・・・・・特に寒くないけど」
お茶を飲んでいた理玖が、ここで言葉を切ってマグカップをテーブルに置いた。
「いや、やっぱり寒い。琴葉さん、温めて」
理玖が甘えるような顔をして琴葉の顔を覗き込む。琴葉は顔がどんどん熱くなっていくのを感じながら、膝に掛けていたブランケットを広げた。
理玖に密着するように身を寄せ、自分と理玖が一緒にくるまれるように掛ける。距離の近さに心臓が爆発しそうになっていたら、理玖が言った。
「これだと、まだ寒いかな」
「えっ?」
「こっち来て」
理玖に腕を引かれ、バランスを崩した。ちょうど理玖の膝の上に乗りかかるような形になり、膝の間に身体が収まるように持ち上げられる。流れるように、ブランケットごと理玖の手が胸元に回った。
――こ、これは、いわゆる膝上バックハグというやつでは・・・・・・?
理玖が琴葉の肩に顔を埋めるので、琴葉は凍りついたように動けなくなった。
「・・・・・・うん。こうしてると温かいね」
理玖の甘さを含んだ低い声が、吐息とともに首元にかかる。身体がビクっと反応してしまい、恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだった。
