清く正しく美しく



「・・・・・・官能小説を、読んでます」

 一度言ってしまったら、理玖の反応が怖くて止まれなくなった。

「耽美な世界観とか、現実では味わえないような感覚や感情に強く興味を惹かれて・・・・・・誰にも言ったことはないんですけど、豆原さんには、高校生の時に読んでいた本を知られて・・・・・・それで」


――怖いなあ。これを聞いて、どう思ったんだろう


「・・・・・・あ。私が誰にも知られたくないって思ってることを分かってくれて・・・・・・誰にも言わないでくれています」


 これ以上は、言葉が続かなかった。理玖は、何も言わずに琴葉の背中を撫で続けている。  


「琴葉さん、教えてくれてありがとう」


 理玖の声は、とても穏やかだった。  


「琴葉さんのことだから、俺に引かれるんじゃないか、とか心配してたんだろうけど、そんなこと全然ないよ」

 理玖が琴葉の肩に置いていた頭を上げて、おでこをコツンと合わせる。表情を窺うと、目を瞑って穏やかな顔をしていた。

 身体に入っていた力が、静かに解けていく。


――ずっと、知られるのが怖かったのに、こんなに優しく受け止めてくれた

 
 ホッとして、嬉しくて。もっと早く言っていれば、こんなに待たせることはなかったのかもしれない、なんて思ってしまった。


「琴葉さん」

 理玖が、琴葉の頬に優しく触れる。

「好きだよ」

 真剣な瞳でそう言われて、触れられている頬がより熱くなるのが分かった。

 理玖の顔が近づいてきて、唇に優しく触れる。

「私も、理玖くんが大好きです」

 そう言うと、理玖が嬉しそうに笑った。少し顔が赤くなっていて、その顔を見たら――ある衝動が、琴葉の中に湧き起こった。


――私から、触れてもいいのかな


 そんな思いが脳裏を過ったけれど、琴葉の身体は考えるよりも先に動いていた。自分の頬に触れている手に自分のものを重ね、顔を寄せる。

 目を瞑る前、目を見開く理玖が視界の端に見えた。


 軽く触れて、すぐに離れる。でも、理玖の顔を見られなくて、目を伏せた。顔が燃えるように熱くて、目の前が潤んでいる。

「本当、ずるいよね。琴葉さん」

 いろいろ、精一杯で琴葉はすぐに反応できない。

 理玖はそんな琴葉の頬を優しく撫でると、少し動かして耳に触れる。親指と人差し指で耳たぶを挟み、撫でるように動かす。

 何度かそうしてから、琴葉の腕を引いた。耳がちょうど理玖の胸につき、心臓の音が聞こえる。琴葉と同じくらい、鼓動が速い。

「何か、もう、一生琴葉さんに敵う気がしない」

 そう呟く理玖の声が聞こえた。


 どうしてそんな風に言うのか、分からない。でも、理玖の声は楽しげに弾んでいたから、琴葉も嬉しくなった。