「よ、月島。久しぶり」
「・・・・・・久しぶり」
「何でいんの、って顔してんな」
駅の改札前で待っていた理玖は、琴葉を見つけるといつもの笑顔を浮かべた。でも、隣からすぐに豆原が手を挙げて声をかけると、怪訝そうな表情に変わってしまった。
「いや、何で?」
「何でって、ねえ?」
豆原が意味深に琴葉の方を見るので、理玖の顔がますます怪訝になる。
「帰りに偶然お会いしまして」
「琴葉ちゃん、俺の魅力を語ってくれたんだよ」
豆原が琴葉の言葉を遮るように続ける。誤解を生みそうな言い回しをするので、理玖の顔が怪訝を通り越して不機嫌そうになってしまった。
「ま、何を語ってくれたのかは俺と琴葉ちゃんの秘密だけどね」
「いや、あの、豆原さん・・・・・・」
雲行きが怪しくなってきたので、豆原を止めようと思ったら、理玖に手を引かれた。豆原から琴葉を隠すように間に入り、目の前に理玖の大きな背中が広がる。
「月島、そんなおっかない顔すんなって。心配しなくても俺は凪ちゃん一筋だよ」
「・・・・・・俺たち、これからデートなんだけど」
「知ってるよ!」
豆原は理玖の背後にいる琴葉を覗き込んで笑顔を浮かべた。
「じゃあね、琴葉ちゃん」
「えっ、はい、また」
「ついでに月島も。じゃあな」
豆原は軽く手を振ると、背を向けて人ごみの中に紛れていく。よく分からないけれど、相変わらず嵐みたいな人だな、と思った。
「あの、理玖くん」
豆原が人ごみに紛れて見えなくなっても、理玖はしばらく無言で見送っていた。琴葉が声をかけると、やっとこっちを見てくれて、ほっとする。
「琴葉さん」
「はい」
「この後の予定、変更してもいい?」
「構いませんけど・・・・・・でも、どうして急に?」
今日は以前から約束していた食器を見に行くことになっていた。予定を変更して何をするつもりなのだろう。琴葉が疑問に思っていると、理玖が答えた。
「今すぐ二人きりになりたい」
「へっ!?」
「・・・・・・だめかな?」
拗ねているような表情を浮かべながら、顔を覗き込まれた。こんな言い方をされたら駄目とは言えないし、何より、琴葉だって理玖と二人でいたいと思うのは一緒なのだ。
「・・・・・・駄目、じゃないです。全く」
「じゃあ、俺の部屋行こう」
そう言うと、理玖は琴葉の手を取って改札の中へずんずん進んでいった。優しくて温かいけれど、いつもよりも強く握られている。
――怒ってるのかな
そう思うと不安になってしまうけれど、原因を考えると――嬉しいと思ってしまう。豆原にも理玖にも失礼になると分かっているのに。
「どうぞ」
ほとんど話をせずに、理玖の部屋に着いた。手を繋いだまま器用に鍵を開けた理玖は、ドアを開いて琴葉に入るよう促した。
「お邪魔します」
琴葉が玄関に足を踏み入れる。素早くドアと鍵を閉めた直後、理玖に背後から抱きしめられた。琴葉は心臓が一段と高く跳ねて、一瞬息を止める。理玖は、琴葉の肩に顔を埋めたまま、動こうとしなかった。
顔も身体も、凄く熱くなっていくのが分かる。琴葉の激しくなっている鼓動が、理玖に伝わってしまいそうだ。
「・・・・・・理玖くん?」
「・・・・・・豆原の魅力って、何」
理玖の熱い吐息が首にかかって、琴葉は身をよじった。身体の奥底が、反応してしまう。
「・・・・・・ごめん」
そう呟いた理玖は、琴葉の身体を反転させ、そのまま玄関のドアに押しつけるようにして口を塞いだ。
「・・・・・・んんっ!?」
いつもみたいな、穏やかにゆっくりと絡め取っていくような口づけではなくて、食べ尽くされてしまいそうなくらい、性急で強引なものだった。
すぐに息苦しくなって、思わず救いを求めるように理玖に手を伸ばす。理玖はすぐに気づいて、指を優しく絡められた。
息継ぎをする合間が全くない。普段だったら、少し息苦しくなる頃に角度が変わるのに。
理玖の激しい口づけに、ついに身体の方が限界を迎えた。崩れ落ちそうになった琴葉を、理玖の腕が抱き止める。
「・・・・・・ぷはぁ、・・・・・・理玖、くん」
唇が離れた瞬間、琴葉は理玖に縋りついて必死に酸素を取り込んだ。目の前にいる理玖は、肩で息をしながら、見たことのないほど熱を帯びた瞳で琴葉を射抜いている。
