清く正しく美しく



 あの後、凪は「琴葉がそこまで言うなら」と戸惑いつつ言っていた。


「何でそこまであいつに肩入れしてるの?」


 午後の講義に出るために大学へ戻っている道中、尋ねてきた。


「・・・・・・豆原さんが頑張ってるの、知ってるからかな」


「・・・・・・そっか」



 凪は小さく呟くと、横を向いて少しの間、道路を走る車を見ながら歩いていた。きっと、これから豆原とどう向き合っていくのか、考えているのだと思う。


 これから、二人がどうなるのかは分からない。琴葉にできることは、たとえ傷つくことがあったとしても、良い方向へ進めますように、と心の中で願いながら見守ることだけ。


――自分にできることはそれだけと分かっているのに


 午後の講義を終え、大学構内を歩きながら、琴葉は凪と豆原のことを考えていた。豆原の好意は凪には伝わっていない。


 琴葉が口を出すことではないと思って、どんなアプローチをしているのか聞いたことはなかったけれど、直接聞くべきなのか、迷っていた。


――確認してみるべき?いや、でも・・・・・・


 豆原さんの連絡先は知らないし、学部が違うから普段会うことはほとんどない。そもそも、琴葉が首を突っ込んで良い問題なのだろうか。


 ぐるぐる考えながら正門へ歩いていると――


「あ、琴葉ちゃん久しぶり」


 急に隣から声をかけられた。ビクッと肩が跳ねて隣を見ると、豆原が手を振っている。


「お久しぶりです。ちょうど良いところに!」


「お、何何?月島の面白い話でもあんの?」


「いえ、そうではなく・・・・・・凪のことなんですけど」


 ああ、と呟いた豆原は、一瞬遠い目をした。


「怒ってた?凪ちゃん」


「はい。かなり」


「だよね。前にも増して嫌そうな顔するようになったし」


「・・・・・・すみません」


 思わず琴葉が謝ると、豆原はきょとんした顔をして琴葉を見る。


「何で琴葉ちゃんが謝るの?」


「あ、いえ・・・・・・私が余計なことを言ってしまったのが原因かと」


 琴葉の言葉を聞いた豆原は、笑い飛ばした。


「関係ないよ。俺なりに考えて月島を参考にしてみたけど、凪ちゃんには迷惑だったみたい」


 凪から話を聞いた時に思ったことを言ってもいいのだろうか。少し逡巡してから、琴葉は口を開いた。


「・・・・・・豆原さんには、月島くんにはない魅力があると思うんです」

「ん?」

「月島くんの真似をするんじゃなくて、豆原さんらしく誠実に凪と向き合ってほしいです。凪に、きちんと伝わるように」


 豆原は一瞬目を見開いた後、ふっと柔らかく笑った。

「俺の魅力って何?」

「えっ」

「琴葉ちゃんが思うやつでいいからさ、教えてよ」


 その問いに、少しだけ言葉が詰まる。

 豆原の顔は意地悪そうに笑っていたけれど、瞳は真剣味を帯びていた。琴葉は考えて、慎重に言葉を選んだ。

「凪にキツくあしらわれてもめげないところと、凪の気持ちを考えて行動に移せること・・・・・・だと思います」

「めげないところ、か」

「凪、豆原さんには遠慮なく言いますからね。気を遣わなくてもいいところは楽なんじゃないかな・・・・・・って」

「あはは、確かに」


 豆原が目を細めて笑った。表情が穏やかで、凪のことを本気で想ってくれているのだと伝わってくる。


「ところでさ、琴葉ちゃんはこれから月島と会うの?」


 突然、理玖の名前を出されて、琴葉はすぐに返事ができなかった。


「え、あ、はい」

「邪魔しないからさ、待ち合わせ場所まで着いて行っていい?」

「構いませんけど・・・・・・もうすぐ着きますし」

 豆原の申し出に、琴葉は首を傾げた。そんな琴葉を見て、豆原はにっと笑う。


「さっきのお礼」

「どういうことですか?」

「教えなーい。後のお楽しみってことで」


 何度か尋ねたけれど、豆原は答えてくれなかった。ただ、何か悪戯しようと考えているのか、楽しそうに先を歩いている。