「・・・・・・豆原さんに告白されたこと、あるの?」
凪は一瞬、何を言われたのか分からなかったかのような顔で目を見開いた後、フォークを動かしていた手が、ピタリと止まった。
「は?あるわけないじゃん」
え、ないの!?
今度は琴葉の方が目を見開いてしまった。豆原があの手この手でアプローチをして、万策尽きたと本人から聞いているのに。
「何で琴葉がそんなに驚いてんの」
「え、いや、それは・・・・・・」
豆原の気持ちを勝手に言う訳にはいかない。かといって好意が凪に全く伝わっていない豆原も不憫で、琴葉は言葉を失った。
「あいつみたいな人はね、誰にでも言うんだよ。甘い言葉を」
凪は少し苛立ったように言うと、巻きすぎたパスタをフォークから外した。綺麗に巻き直し、口の中に放り込む。
「・・・・・・でも、豆原さん、高校の途中から誰にでもそういうこと言わなくなったと思うよ?」
豆原は凪のことが本気で好きになったと打ち明けてくれてから、他の女の子といることはなくなった。可愛いとか、綺麗とか、好きとか――そういう、甘い言葉を吐くこともなかった。少なくとも、琴葉にはそう見えていた。
「どうだか。人の目のないところで言ってるだけじゃないの」
それは――凪が、今の豆原さんを見ていないからだ。プレイボーイな凪のお兄さんと同じだと思っているから。
凪に本気で恋をしてから、豆原は凪に一筋だった。諦めきれないと言った切実な声と表情も覚えている。こんな風に思われているなんて、あんまりだ。
「・・・・・・凪。それは違うよ」
「琴葉?」
思ったよりも低い声が出てしまったからか、凪が面食らったような顔をした。
「豆原さん、変わろうとしてるし・・・・・・変わったよ」
豆原のためにも、凪のためにも、琴葉が言えることは一つだけ。
「今の豆原さんを、ちゃんと見てあげて」
凪は困惑と驚きの混ざり合った複雑な表情をしていた。いつも凛としている凪の瞳が、揺れるところを初めて見た。
