丑の刻参りを見た男

友達と話しているうちに、肝試しをすることになった。
と言っても、やるのは俺だけ。
夜中、山の中にある神社に一人でいき、そこの写真をスマホで撮ってくる。それが、肝試しのルールだ。
仲間内で一番度胸があるのは誰かって話題になって、俺が名乗りをあげた結果、やることになったんだ。

ちょっと面倒だが、臆病と思われるのは嫌だし、度胸には自信がある。神社の近くまで来た今も、恐怖はちっとも感じなかった。

けどその時、変な音が聞こえてきた。コンコンという、金属を打ち付けるような音が。

さすがに不気味に思い、音のする方を見る。
するとそこには、木に向かって一心不乱に藁人形を打ち付ける、一人の女がいた。

それを見て、震え上がる。
これは、丑の刻参り。藁人形の中に憎い相手の髪の毛を入れ、釘で打ち付けるという呪いの儀式だ。呪われた相手は、死に至るという。

こんなのを間近で見たら、さすがに怖い。
思わず息を飲むと、女が俺の気配に気づく。こっちを振り向き、目が合った。
次の瞬間、俺は一目散に逃げ出した。

丑の刻参は、やっている瞬間を人に見られると、呪いが自分に返ってくるという。それを何とかするには、見た奴を殺すしかない。
つまり俺は、あの女に殺されるかもしれないんだ。
そんなの、逃げるに決まってる。

だがここは、真っ暗な山の中。とにかく視界が悪かった。走っている途中で、道の脇から伸びた木の枝で顔を打ち、そのはずみで被っていた帽子が落ちる。

帽子を拾おうと振り返るが、拾うことはなかった。
すぐ後ろに、さっきの女が迫ってきていたから。しかも、怒りの形相で、手にはナイフが握られている。

俺はさっきよりもさらに必死で山の中を駆け抜けた。
途中、いくつも擦り傷を作ったが、痛みなんて感じる暇はなかった。

その甲斐あってか、息も絶え絶えで走れなくなった頃、再び後ろを見ると、女の姿はどこにもなかった。

た、助かった。
ホッとして、全身から力が抜ける。
こんな目にあうなんて、肝試しはもう懲り懲りだ。

けど、無事に逃げきれてよかった。



【解説】

主人公を殺そうと追いかけてきた女は、果たして諦めたのか。
女は、あれ以上追いかける必要などなかったのかもしれない。

途中、主人公が落とした帽子。その中に彼の髪の毛が入っていたら、それを使って丑の刻参りをし、呪い殺すことができるのだから。