べらと、ゆかいでちょっぴりざんねんな仲間たち

 これまで紹介した仲間《なかの》は、トットとクマハチ。
 泳げないオットセイのトットは何でもずけずけ言うタイプ。ハチになりたい白クマのクマハチはふだんは大人しいですが、時にはすごくがんこです。

 次はライオンのモッヒです。
 来たばかりの頃は「レオ」と呼ばれていて、いつも野球帽をかぶっていてました。
 レオは「ぼうしが好きなんだぜ」と言って、朝から晩まで、ぼうしをかぶったままです。けれど、ある時、なにか考えこんでいる日がつづいたと思ったら、とつ然、ぼうしをぬぎました。
 そしたら、ヘアがモヒカンだったのです。それも、しおれた感じのモヒカン。

「どしたの、そのたて髪?」
 クマハチの口から、そんな言葉がすべりました。
「おまえはそれでもライオンか」
 とトットが言いました。
 トットが少し皮肉屋なのは、レオも知っています。
 レオはいつもはそんなことなんか気にしないのに、その時はちがいました。
「ひどいよぉ。ぼくはうす毛だけど、れっきとしたライオンだぜ」
 と泣きだしました。
 レオが泣いたなんて初めてだったので、みんな、おどろきました。レオは地面に顔をつけて、わんわんと泣きました。
 それは洞穴から吹いてくる風のように悲しそうで、みんなも、悲しくなってしまいました。

 トットはまた悪いくせが出てしまったと気づき、「ごめんな。この口を石けんであらうから、ごめん」と何度もあやまりました。でも、レオは「そういうことじゃないんだ」と言って泣くばかりです。
 どうしようもなくなったみんなは、またべらちゃんのところに行きました。
 べらはコンピュータに向かって、小説を書いていました。小説家になりたいというのが子どもの頃からの夢です。それで、コンテストに応募し続けているのですが、入賞したという話は聞いたことがありません。

 トットが自分の失言についてあやまりました。
「ぼくは時間を取りもどしたい。あそこにもどったら、あんなことは二度と言わない」
 とべそをかいています。
「What's done is done」
 とべらが言いました。
「そういうの、日本ではふく水、盆《ぼん》に返《かえ》らず、って言うのよ。ママが言ってた」
「意味《いみ》、わかんない」
 とトットです。
「トレイの上にのせたカップからこぼれた水は、もとにもどらないという意味よ」
「じゃ、別の水をいれたらだめですか。カップはこわれなかったようだから、ぼくがミネラルウォーターを買ってきて、そのカップにいれるというのはだめですか」
 とクマハチです。
「いや、これはたとえなのでね」
 とべらが困りました。

「トットくん、およぎの練習をつき合うよ」
 とクマハチが言いました。べらちゃんとレオをふたりだけにしたほうがよいと考えたのです。
「おまえ、およげるのか」
「今はクマハチだけど、もとはシロクマだったから、およぎは得意なんだよ」
「そうか。おしえてくれ」
 べらちゃん、あとはよろしく。ふたりはレオをべらのところにおいて、部屋を出ていきました。

 ふたりが出ていくと、急に時計の音が聞こえるくらい、部屋がしずかになりました。レオはべらとふたりで向いあったことがなかったので、少し照れてもじもじしました。
「レオくん、これまでもいろんなことを言われても気にしない大きな心のライオンだったのに、どうしちゃったのかな」
「これ」
 レオはしゃくりあげながら、ポケットから写真を出して見せました。
「りっぱなライオンねぇ」
「父さんなんだ。ライオン・キング」
 とレオが胸をはりました。
 まさに、百獣(ひゃくじゅう)の王としての貫録がただよっています。べらがわぁーと言った後、息を吸い込みました。
「すごいお父さんねぇ」
 レオの顔が少し和らぎました。
「お父さんのこと、すごくリスペクトしているのね」
 レオが鼻《はな》をすすりながら、うなずきました。肩がゆれています。
「ぼくは・・・・・・」
 レオの次の言葉がなかなか出てきません。
 レオが落ち着くまでの時間をあたえるために、べらは気にしないふりをして、コンピュータに向かいました。

 レオがようやく話し始めました。
「ぼくはライオン名門ファミリーの長男なんだ。でも、からだも小さいし、ヘアもこんなに残念だから、小さな時からコンプレックスのかたまりで、うつわが小さいんだ。ファミリーのリーダーとして、みんなを引っぱってなんかいけない。だから、弟たちにあとをゆずって、家出してきたんだ」
 そうなのよね。べらがうんうんとうなずいて、ふり向きました。
「それは人間の世界でも、ある話よ」
「人間の世界でも、あるの?」
「でもね、日本には徳川家康(とくがわいえやす)という江戸時代の有名な将軍(しょうぐん)がいて、長男があとをつぐように命令したのよ。たとえ、弟のほうがりっぱでも、何でも」
「どうして」
「そのほうが、あらそいが起きないからよ。だから、とくがわ家は15代、265年もつづいたのよ」
「265年もかぁ。すごいなぁ」
 とレオは感心しました。

「ぼく、この間、家族のゆめを見たんだ。みんながとても会いたがっていたんだ。ぼくもみんなに会いたい」
「じゃ、わたしが連れていってあげるわ。今はお金がないからむりだけど、貯金がたまったらね」
「でも、ぼくは帰りたいけど、帰れないんだ」
「どうして?」
「だって、ぼくは何もなしとげていない。帰るからには、ぼくは男として、これをやったんだというものを持って、帰りたいんだ。だから、いろいろと考えていたんだ。これから、どう進めばいいのかって」
「ああ、それを聞いてわかった気がするわ。最近、考えこんでいたようだったもの。レオくん、それはすばらしいわ」
「べらちゃん、ありがとう」

「それで、これからどう進むのか、わかったの?」
「ぼくは考えたんだ。ぼくは生まれつきのモヒカンで、そのことがコンプレックスのもとだった。でも、これをいかして、ラッパーになろうと決めんだ」
「ラッパーって、何かをつつむ人のこと?」
「ちがうよぉ。ラッパーって、ラップを歌うシンガ―だよ」
「ああ、あれね。何を言っているのかさっぱりわからないけど、若い人には人気よね」
「ぼくのこのヘアは、ラッパーになるためにあるんだって、気がついたんだ」
「ああ、そうね。そういうヘアのシンガー、いるわね。すごくよい考えだけど、レオくんは歌えるの? 歌うのを聞いたことがないけれど」
「れんしゅうして、そのうちに歌ってみせるよ」
「楽しみにしているわ」
 べらがそう言ってから、首をかたむけました。

「でもね、そのことと、トットくんに言われて泣いたことと、どんな関係があるのかな」
「それは」
 レオの鼻がまたひくひくしています。
「なにかゼッタイに言われたくないこと、言われちゃったんじゃない?わたしには、わかるの」
「べらちゃん、わかるの?」
「わかるわ」
「ぼくはこんなヘアだから、ぼうしをぬいだらライオンに見えないだろうなと、心の中ではびくびくしていたんだ。ゆうきをだしてぼうしをぬいだら、そのとたんに、おまえはそれでもライオンかって言われてしまったから、ショックだったんだ。でも、トットが悪いんじゃない。トットは正直なんだ。だから、よけい悲しかった。世の中のみんなも、そう思うんだろうなと思ったら、悲しさでいっぱいになってしまったんだ。そしたら、つらかったことばかりを思い出して、とまらなくなってしまったんだ」
「そういうことよね」
 べらはうで組みをして、天井を見上げました。

「あるのよねぇ、相手にとってそんな意味ではなかったかもしれないけど、言われると心にぐさりと突きささって。すごくきずつくことが」
「べらちゃんにも、あった?」
「あるある、大あり。思い出すと、泣きたくなることがあるわ」
「それって、何?」
「ごめんなさい。つらすぎて、まだ言えないの」
「そうなんだ」
「でも、言える時がきたら、さいしょに、レオくんに言うから」
「ぼくに、一番先に、言ってくれるの?」
 べらから特別あつかいされて、レオはうれしくなりました。
「べらちゃん、やくそくだよ、きっと」
「べらはやくそくを守るオンナだい」
 とべらがどんと胸をたたきました。

「じゃ、やくそく記念に、べらちゃんにこのぼうしをプレゼントするよ」
「いいの?今まで一番大事にしていたじゃない?」
「大事だから、あげたいんだ。それに、ぼくはこれからは、ラッパーのモヒカンとして、生きていくんだから」
「ラッパーとして成功して、アフリカの家族のみんなに会いに行こうね」
 というわけで、その日から、レオの名前が「モッヒ」になったのでした。
 イエーイ。