マリンは風のグランドビュー公園にいて、身体からくさいにおいがすっかり抜けるのを待ちました。そして、2週間たった時、またべらの家をたずねました。
それは、青いビニールをぴっと広げて、空にはったみたいなぴかぴかの朝でした。
マリンは、勇気を出して、ドアベルを押しました。
この間は、うまくいかなかったけど、きょうはゆっくりと話すんだ、と心に決めていました。リハーサルだってたくさんしたので、どきどきはしていますが、前よりは自信があります。
「ごめんくだちゃい」
マリンはそう言ってから、少しそわそわしました。
「はーい」
べらがにこにこして出てきました。
「いらっしゃい。また来てくれたのね」
べらの目がきらきらしています。
べらの後ろから、この間のオットセイと、ライオン、それから、なぜかハチのコスチュームをきたシロクマが顔を出しました。
「こちらがオットセイのトット、ライオンがモッヒ、シロクマのクマハチよ」
とべらが紹介してくれました。
さあ、こんどはぼくのばんだ。きちんとあいさつするんだぞ、とマリンは自分に言いました。ぼくだって男のスカンクなんだ。がんばろう。
マリンは右足を一歩前に出し、右の手のひらを上に向けました。
「てまえ生国と発しまちゅるところ、マリンヘッドランズでちゅ」
みんなは口をほかんとあけていましたが、マリンは「よくあいさつのしかたを知っているね」、と感心されているのだと思って、ちょっとよい気分になってつづけました。
「マリンヘッドランズといっても、広うござんちゅ。生まれはポイント・ボニータの近くでござんちゅ。姓はスカンク、名はマリン、どうじょよろしくおねがいいたしまちゅ」
その時のべらの顔ときたら、これはどういうことかという答えをさがして、目の玉がきょろきょろしていました。
「あのう、はい。マリンくん、じょうずにできました」
べらはほめてくれましたが、後ろにいたみんなが、空気をいれすぎた風せんがばくはつしたみたいに、どっと笑いました。
ええっ。ぼく、ものすごい間ちがいをしてしまったのかな。変なことを言ってしまったのかな。たくさんのクエスチョンマークがマリンの頭に浮かびました。
このあいさつはブルーノというしば犬から習いました。
マリンがにおいがなくなるのをまっていた時、ブルーノに出会ったのです。そのブルーノの話では、べらのことは昔から知っていて、今では家の冷蔵庫だって自由にあけちゃう仲なのです。
べらは半分日本人だから、日本の正式なあいさつをしたほうがいいよ、とそのやり方を教えてくれたのです。
日本の犬はとてもしんせつだとマリンはと感動しました。
マリンがなんども練習していたら、ブルーノの主人のジェフがリハーサルを見てくれるというのです。
ジェフの前でやってみると、
「クール、クール。サイコー。べらちゃんもよろこぶよ」
ジェフはグーとおや指を立てて、ほめてくれました。
だから、マリンは自信をもっていたのです。
みんなに笑われて、マリンは身体中の血が頭にのぼって、脳《のう》がちぢんでしまった感じがしました。もう何も考えられません。
また、ストレスがたまってきたようです。急がなくてはにおいシャワーが出そうです。
「べらちゃん、入院《にゅういん》していなかったんでちゅか。雨にぬれて、病気だったんじゃないんでちゅか」
涙《なみだ》がこみ上げてきました。
「わたしがマリンヘッドランズに行かなかったのは、大きなお仕事があったからなのよ。わたし、ツアーガイドをしているの。外国果からのお客さまを案内していたのよ」
「ツアーガイドなんでちゅか」
「そう。いつもは市内の案内だけれど、あれは特別で、長かったの」
「べらちゃんはしょうせつも書いているんだぜ
とライオンのモッヒが言いました。
「でも、コンテストに、うかったことはないんだ」
とオットセイのトットです。
べらがふたりをにらんで、「しっ」と言いました。
「べらちゃんが元気なら、ぼくはいいんでちゅ。さよなら」
もう限界です。 マリンは急いで家を出ました。
「マリンくん、てがみを書いて」
べらがはだしでドライブウェイまで出てきて、大声で叫びました。
「てがみを、書いてね」
マリンは走りながら、ジェフとブルーノのコンビにだまされたのだとわかりました。なぜ、気がつかなかったのだろう。からかわれていたのに、ばかだったなぁ。
世の中は冷たいなぁ。ぽろぽろと涙が出てきました。
ゴールデンハイツ公園に行くと、ジェフとブルーノがへらへらと笑ってまっていました。
「べらはよろこんでくれたかい」
「ぼくをだましたんでちゅか。ブルーノさんはしんせつな犬だと信じていたのに」
「おまえがあまりに田舎者だから、町ではかんたんに人を信じてはいけないというレッスンをしてやったんだ。かんしゃしろ」
「シバ犬だというのも、うそでちゅね」
「おれはシバ犬だとは言っていない。シバ犬風だと言ったんだ」
「べらちゃんとしたしいなんて、うそでちゅよね。おかげで、ぼくは大切な人の前で、はじをかいてしまいました。ぼくはすごくかなしい」
「ふうん。あのパッションフルーツみたいなちゃらんぽらん姉ちゃんが、そんなに大切なのかい」
とジェフが言いました。
「べらちゃんのことをそんなふうに言うなんて、ゆるちぇない」
「怒ったか。決とうでもするのか、ちびスカンク」
ブルーノがたたかうポーズをしました。
ジェフが「やれ、やれ」とはやし立てました。
マリンはけんかはいやです。急いでにげました。
「おまえはチキンか。おくびょうのこしぬけスカンク」
ジェフが勝ちほこったように言いました。
「おれ、けんかでは負けなしでちゅ」
と、ブルーノがマリンの口まねをして、人と犬のコンビが笑いました。
マリンは5メートル先まで行き、そこでするどい目をしてふり返り、ブルーノの顔をめがけて、「イエーッ」、ジェフの顔をめがけて「イエーッ」、全力で、くさいシャワーをふきかけました。
ヒューッ、パシン。ヒューッ。バシン。
くさいシャワーはブルーノとジェフの顔にストレートに命中して、ジェフは顔を手でおさえてたおれました。ブルーノは子犬みたいにきゃんきゃんとほえ、においからにげようとコマみたいにくるくると回ったのでした。
マリンはにおいからにげて、ずうっと下のゴールデンゲート公園までかけて行きました。なんか、少したたかい方がわかったような気がしました。
考えてみたら、敵にシャワーを吹きかけたのは初めてでした。そう言えば、マリンヘッドランズにいた時、パパやママ、お兄さんが、コヨーテにシャワーを吹きかけるのをなんども見たことがあります。
ぼくはいつも家族に守られていたのだ、とその時、わかりました。
それは、青いビニールをぴっと広げて、空にはったみたいなぴかぴかの朝でした。
マリンは、勇気を出して、ドアベルを押しました。
この間は、うまくいかなかったけど、きょうはゆっくりと話すんだ、と心に決めていました。リハーサルだってたくさんしたので、どきどきはしていますが、前よりは自信があります。
「ごめんくだちゃい」
マリンはそう言ってから、少しそわそわしました。
「はーい」
べらがにこにこして出てきました。
「いらっしゃい。また来てくれたのね」
べらの目がきらきらしています。
べらの後ろから、この間のオットセイと、ライオン、それから、なぜかハチのコスチュームをきたシロクマが顔を出しました。
「こちらがオットセイのトット、ライオンがモッヒ、シロクマのクマハチよ」
とべらが紹介してくれました。
さあ、こんどはぼくのばんだ。きちんとあいさつするんだぞ、とマリンは自分に言いました。ぼくだって男のスカンクなんだ。がんばろう。
マリンは右足を一歩前に出し、右の手のひらを上に向けました。
「てまえ生国と発しまちゅるところ、マリンヘッドランズでちゅ」
みんなは口をほかんとあけていましたが、マリンは「よくあいさつのしかたを知っているね」、と感心されているのだと思って、ちょっとよい気分になってつづけました。
「マリンヘッドランズといっても、広うござんちゅ。生まれはポイント・ボニータの近くでござんちゅ。姓はスカンク、名はマリン、どうじょよろしくおねがいいたしまちゅ」
その時のべらの顔ときたら、これはどういうことかという答えをさがして、目の玉がきょろきょろしていました。
「あのう、はい。マリンくん、じょうずにできました」
べらはほめてくれましたが、後ろにいたみんなが、空気をいれすぎた風せんがばくはつしたみたいに、どっと笑いました。
ええっ。ぼく、ものすごい間ちがいをしてしまったのかな。変なことを言ってしまったのかな。たくさんのクエスチョンマークがマリンの頭に浮かびました。
このあいさつはブルーノというしば犬から習いました。
マリンがにおいがなくなるのをまっていた時、ブルーノに出会ったのです。そのブルーノの話では、べらのことは昔から知っていて、今では家の冷蔵庫だって自由にあけちゃう仲なのです。
べらは半分日本人だから、日本の正式なあいさつをしたほうがいいよ、とそのやり方を教えてくれたのです。
日本の犬はとてもしんせつだとマリンはと感動しました。
マリンがなんども練習していたら、ブルーノの主人のジェフがリハーサルを見てくれるというのです。
ジェフの前でやってみると、
「クール、クール。サイコー。べらちゃんもよろこぶよ」
ジェフはグーとおや指を立てて、ほめてくれました。
だから、マリンは自信をもっていたのです。
みんなに笑われて、マリンは身体中の血が頭にのぼって、脳《のう》がちぢんでしまった感じがしました。もう何も考えられません。
また、ストレスがたまってきたようです。急がなくてはにおいシャワーが出そうです。
「べらちゃん、入院《にゅういん》していなかったんでちゅか。雨にぬれて、病気だったんじゃないんでちゅか」
涙《なみだ》がこみ上げてきました。
「わたしがマリンヘッドランズに行かなかったのは、大きなお仕事があったからなのよ。わたし、ツアーガイドをしているの。外国果からのお客さまを案内していたのよ」
「ツアーガイドなんでちゅか」
「そう。いつもは市内の案内だけれど、あれは特別で、長かったの」
「べらちゃんはしょうせつも書いているんだぜ
とライオンのモッヒが言いました。
「でも、コンテストに、うかったことはないんだ」
とオットセイのトットです。
べらがふたりをにらんで、「しっ」と言いました。
「べらちゃんが元気なら、ぼくはいいんでちゅ。さよなら」
もう限界です。 マリンは急いで家を出ました。
「マリンくん、てがみを書いて」
べらがはだしでドライブウェイまで出てきて、大声で叫びました。
「てがみを、書いてね」
マリンは走りながら、ジェフとブルーノのコンビにだまされたのだとわかりました。なぜ、気がつかなかったのだろう。からかわれていたのに、ばかだったなぁ。
世の中は冷たいなぁ。ぽろぽろと涙が出てきました。
ゴールデンハイツ公園に行くと、ジェフとブルーノがへらへらと笑ってまっていました。
「べらはよろこんでくれたかい」
「ぼくをだましたんでちゅか。ブルーノさんはしんせつな犬だと信じていたのに」
「おまえがあまりに田舎者だから、町ではかんたんに人を信じてはいけないというレッスンをしてやったんだ。かんしゃしろ」
「シバ犬だというのも、うそでちゅね」
「おれはシバ犬だとは言っていない。シバ犬風だと言ったんだ」
「べらちゃんとしたしいなんて、うそでちゅよね。おかげで、ぼくは大切な人の前で、はじをかいてしまいました。ぼくはすごくかなしい」
「ふうん。あのパッションフルーツみたいなちゃらんぽらん姉ちゃんが、そんなに大切なのかい」
とジェフが言いました。
「べらちゃんのことをそんなふうに言うなんて、ゆるちぇない」
「怒ったか。決とうでもするのか、ちびスカンク」
ブルーノがたたかうポーズをしました。
ジェフが「やれ、やれ」とはやし立てました。
マリンはけんかはいやです。急いでにげました。
「おまえはチキンか。おくびょうのこしぬけスカンク」
ジェフが勝ちほこったように言いました。
「おれ、けんかでは負けなしでちゅ」
と、ブルーノがマリンの口まねをして、人と犬のコンビが笑いました。
マリンは5メートル先まで行き、そこでするどい目をしてふり返り、ブルーノの顔をめがけて、「イエーッ」、ジェフの顔をめがけて「イエーッ」、全力で、くさいシャワーをふきかけました。
ヒューッ、パシン。ヒューッ。バシン。
くさいシャワーはブルーノとジェフの顔にストレートに命中して、ジェフは顔を手でおさえてたおれました。ブルーノは子犬みたいにきゃんきゃんとほえ、においからにげようとコマみたいにくるくると回ったのでした。
マリンはにおいからにげて、ずうっと下のゴールデンゲート公園までかけて行きました。なんか、少したたかい方がわかったような気がしました。
考えてみたら、敵にシャワーを吹きかけたのは初めてでした。そう言えば、マリンヘッドランズにいた時、パパやママ、お兄さんが、コヨーテにシャワーを吹きかけるのをなんども見たことがあります。
ぼくはいつも家族に守られていたのだ、とその時、わかりました。

