べらと、ゆかいでちょっぴりざんねんな仲間たち

 マリンはあの子のことを思うと、夜中に胸がざわざわして、目がさめてしまうこともよくあります。
 もしかしたら、あの子は熱を出して、苦しんでいるのではないだろうか。そう思うと、胸にひびがはいるような、かなしい思いがおそいかかってくるのです。病気だったら、助けてあげたいなぁ。

 夜になると、目の下には、サンフランシスコに金色のあかりが見えます。ひとつひとつのかがやきが、今では氷でできた針のようにちくちくと心をさして、とても痛いのです。
 あの子は、あの窓の、どれに住んでいるのだろうか。
 いつもひとりでハイキングに来ていたけれど、そばに世話をしてくれる人はいるのだろうか。お水がのみたい時、ベッドまではこんでくれる人はいるのだろうか。大すきなごはんを食べているのだろうか。
 
 もしかしたら、あの子はこの世にはもういない!
 死んでしまって、この世にはいないのではないだろうか。
 そう思うと、マリンはパニックになり、くさすぎるシャワーを出してしまいました。でも、急いで風上に逃げたので、だいじょうぶでした。

 あの子に会いに行こうかな、とマリンはとつぜん、思いました。
 サンフランシスコに行って、あの子をさがしてみようかな。
 ぼくはあの子のにおいを知っているから、見つけられるかもしれない。
 においを感じやすいこの才能には苦しんできたけれど、こんな時には役にたつ。この才能は、この時のためにあったのかもしれない。

 でも、心の中に住んでいるもうひとりの自分が、きびしい声で言いました。
「マリン、どうしてみんなからはなれて、ひとりでスラッカーヒルに住むようになったか、わすれたのかい。こんなだれもいない所で、ようやく生きているというのに、あんな人が多いビッグ・シティに行ったらどうなるのか、考えなさい。おまえはばかかい」

 そうなんだよ、とマリンは思いました。
 あんな所に行ったら、ストレスでくさいシャワーを出して気を失い、すぐに死んでしまうかもしれない。
 ぼくが、町になんか、行けるはずがない。
 そんなことはわかっています。
 でも、行きたい。
 行って、あの子がぶじかどうか、この目でたしかめたいんだ。

「おまえはあの子が好きなのかい。あいては人間だぜ。おまえはあんぽんたんかい」
 好きとかそういうことじゃないよ。
 この地球《ちきゅう》に生きているひとりとして、あの子のことが、とても気にかかるんだ。それがいけないことかい。
「いけないとは言っていない。むだだと言っているのさ。むだな努力はやめな。それなら、もっとスカンク界のために、何ができるのか、考えたらいい」
 それはそうなんだよ、とマリンは思いました。

 でも、ある朝、マリンは立ち上がりました。
 ぼく、サンフランシスコに行くんだ。
 あの子のようすを見てこよう。見てくるんだ。
 そう決心して、住んでいた穴をきれいにそうじしました。ここにまた、もどってくることができるのかな。

「おまえはおん知らずだ。おまえのお母ちゃんは、人間に会いに行かせるために、おまえをうんだと思うか」
 ねぇ、おねがいだから、しばらくは顔を見せないで。ママのことは言わないで。
 100回なやんで決めたことだから、今はもう考えたくないんだ。考えてばかりいないで、動きたいんだよ。
「そんなことをしたら、死ぬぞ」
 ねっ、ぼくの好きなようにさせてください。もしこれでぼくがいのちを落としたとしても、それは運命《うんめい》だったと思うんだ。
「おまえは、昨日までは、町には行けないと言っていたのに、どうして、急にすごい決心をしたんだい」
 それが自分でもわからない。
 朝になったら、決めていたんだ。
 あの子に会いにいかないとしたら、そのぼくは身体は生きていても、生きてはいない。
 ぼくはこのアドベンチャーに、生きてみたいんだ。
 さようなら。

 マリンはいそいで丘を下り、ゴールデンゲート・ブリッジに向かいました。
 橋も車も、だんだんと大きくなってきます。橋に着いたら、心ぞうがばくばくしました。
 そこにはツーリストの人間がたくさんいました。
 その時、子どもたちが「スカンクだ」と追いかけてきたので、マリンはおどろいて、大きいのを一発やってしまいました。
 だれが「くさい」と言い、みんながさわぎ始めました。
 マリンは急いで、橋の下にかくれました。

 橋の下は寒くて、こわくて、とてもみじめなきもちです。
 涙がじわっと出てきました。
 そんなよわい心でどうするんだ。
 自分で決めたんだろ、とマリンは自分に言いました。
 うん、ぼくは行くよ。あの子のところに行くんだ。
 上のさわぎがおさまったころ、マリンは橋の上にもどりました。
 そして、マリンはしゃくりあげながら走りました。

 ゴールデンゲートの橋は、真ん中をいきとかえりの車が走り、両側のはしの一方は自転車用、もう一方が人間用なのです。でも、今は修理工事のため、片方しか空いていないので、人も自転車も通っているから、とてもこんでいました。
 人間たちがまたマリンに気がついて「おっ、スカンクだ」とカメラを向ける者もいましたが、そこはフルスピードで走りぬけました。
 サンフランシスコ側になるにつれ、ますます人が増えてきたので、マリンはふまれないように欄干(らんかん)、つまり橋の手すりを走ることにしました。

 落ちたら、水の中です。およげないので、気をつけなければなりません。
 その時、男の子供がふたり、マリンに気がついて、追いかけてきました。人間のこどもは追いかけるのがすきです。
 これは大変。またフルスピードで逃げます。
 
 きゃっ。
 その時、マリンは足をすべらして、下に落ちました。
 ああ、水・・・・・・落ちる―っ。
 でも、なにか、こわいというより夢の中です。
 その時、ぼくのスカンク人生はこれまでか、と思いました。ぼくがもらった時間は、ここまでだったんだ。
「さようなら、やさしいママ、ごめんなさい。大すきでした」

 でも、気がついたら、落ちたのは、船の上でした。青い観光船の上に落ちたのでした。
 船に乗っていたお客さんが、「くさいくさい」と大さわぎしました。
 マリンはすぐにそれが自分のせいだと分かりました。
 落ちたショックで、また一発、かましてしまったようです。
風上(かざかみ)、風上」
 とマリンは船の先のほうに行って、かくれました。
 マリンはお尻がいたかったので、なでました。でも大きな尾っぽがクッションになってくれたので、けがはありませんでした。