べらと、ゆかいでちょっぴりざんねんな仲間たち

 朝早くドアがノックされたので、時計をみたら、まだ5時半でした。朝食にしては早すぎると思ったら、ドアの外に足踏みをするみたいにじりじりしながら立っていたのはデミアンでした。

「母鳥がいません」
 とデミアンが言いました。
「子鳥は?」

「鳥って、目をあけていたら、生きていますよね」
「えっ。そうだと思いますけれど、どうして?」
「子鳥が目をあけているのです。でも、まばたきはしていませんし、動いてもいません」
 べらは急いで、子鳥のいる場所にかけつけました。子鳥は丸くて黒い目をあけています。
 この小鳥、動いてはいませんが、生きていますよね、とふたりは顔を見合わせました。祈りが通じたのでしょうか、奇跡がおきていました。

「この鳥の名前はなんですか。虫を食べますか。種ですか」
「知らない鳥なんです」
「この灰色で黒い点々がある鳥は、カリフォルニアにはたくさんいて、モーニング・ドブ《ナゲキバト》という名前で、種を食べます。でも、ヨーロッパにはいないはずです」
「モーニング・ドブって、朝のハトですか」
「いいえ。モーニングには悲しんでいるという意味があります。鳴き声が、なげいてて泣いているみたいなので、そう呼ばれています。ウー、ウー、ウーって鳴くんです」
「ああ、そういえば」
 とデミアンが苦しい顔をしました。
「考えてみたら、弟がいなくなった頃に、この庭に現《あらわ》れました。母がなげいていたので、ナゲキバトがあらわれたのかもしれません」

 べらはパジャマのまま下りてきてしまったので、着替えに戻り、デミアンは種を用意し、朝食の後で、ゆっくりお世話をすることにしました。
 朝食の最中、デミアンが「母鳥がもどってきました」、とか「小鳥の首がしっかりしてきました」といちいち報告にくるので、べらは行きたくて仕方がありません。

 それで、朝食を終えて下に行く時に、急ぎ過ぎたのと、ヒールのせいで、べらは階段から落《お》ちて、宙を飛びました。
 やってしまった、と一瞬思いましたけれど、でも、そこにデミアンがいて、両手で受け止めてくれたので、助かりました。

 ふたりが行けつけると、子鳥はいませんでした。
「いなくなりましたね」
「じゃ、子鳥は生きていたということで、お母さんと飛んでいったのですね」
 べらはうれしすぎて逆立ちをしたいところですが、ここは王宮なので、つつしみました。

「王宮の庭には、たくさんの鳥がいるのですね」
「はい。フクロウもいますよ。昨夜はフクロウがホーホーという声が聞こえました」
「ああ」
 とべらが声を上げました。「それでわかりました」
「何がわかったのですか」

 べらはこう考えます。
 生まれたばかりの子鳥は、たぶん巣から落ちて、気絶をしていました。夕方に母鳥がやってきて、かぶさっていたのは、フクロウから守るだめです。フクロウは夜行性で、子鳥が大好物なのです。
 母鳥は夜の間、フクロウから子鳥を守り続けましたが、朝がきて大丈夫になったので、飛び去ったのです。
 ナゲキバトの場合には、同時に2羽産むので、もう1羽の子供の様子を見にいったのかもしれません。
 そして、また母親が戻ってきて、母子は仲間のところに飛んでいったのではないでしょうか。

「なるほど。よくわかりました。では、もう1羽、生まれたばかりの子鳥がいるかもしれないのですね。探してみます」
「父鳥のほうも、近くにいると思います。ナゲキバトの夫婦はとても仲がよくて、一度結婚したら、一生、いっしょなのですよ」
「そういうの、よいですねぇ。ぼくも、そういうのが理想です。べらさん、ここに残って、ぼくと鳥や動物の研究をしてもらえませんか」
 とデミアンがとても真剣な顔で言いました。
「ありがとうございます。でも、仕事が待っていますから、帰らなければなりません」

 べらが帰りのしたくをしていると、ドアがノックされて、デミアンかと思ったら、ゴーちゃんが大きな花束をだいていました。
「デミアンからたのまれたんだよ。お兄ちゃんは弱った子鳥を見つけたので、そっちに行っているよ」
「子鳥を見つけたの?」
「べらちゃんがもう1羽いるはずだと言ったので、ずうっとさがしていたんだよ」
 デミアンはやさしいプリンスなのね。
 べらはその大きな花束をかかえて、飛行機に乗りました。

 サンフランシスコのわが家に着きました。たった3日の旅でしたが、もと長い旅をしたような気分です。
 出かけた時は6人だったのに、帰ってきたのはふたりです。
 毎日聞こえていた音がきこえなくてさみしいな、と思っていたら、ドアベルが鳴って、大きなバラの花かごが届けられました。
 カードを見ると、おくってくれたのは「デミアン」でした。
「見送りに行けなくて、ごめんなさい。2羽の子鳥は元気に育っています。『べべ』と『らら』という名前をつけましたが、どう思いますか。この子鳥たちの様子を見にきてください。ありがとう、愛をこめてデミアン」
 それに、メールアドレスが書いてありました。

「プリンス・デミアンはべらちゃんのことが好きみたいでちゅ。デミアンと結婚したら、べらちゃんはプリンセスでちゅね」
「オー、わたしが、プリンセス。プリンセス・べら、いいじゃない?」
 べらが両手を空に向かって広げました。
 
 そして、マリンを見てくちゃっと笑って、
「Absolutely Impossible」
 となんだかむずかしい言葉を叫びました。「ぜったいに、むり」という意味です。

「プリンス・ドミニクがきらいでちゅか」
「そういう問題ではないの」
「何がもんだいなんでちゅうか」 
「くつ」
「どういういみでちゅか」

 べらはお姫さまやスターみたいなドレスを用意してもらってうれしかったのですが、でも着てみると、とてもたいへん。でも、もっとたいへんなのが、くつ。
「わたし、ヒールなんか、はいたことないもの。3回もころんだのよ。いちどは階段からおちて、もう少しで、首のほねを折るところよ」
「だいじょうぶでちたか」
「下に、プリンス・デミアンがいて、受けとてめてくれたわ。あぶなかったー」
「それって、韓国ドラマによくありまちゅ。そこから恋がはじまるんでちゅよね」
「よく知っているのね。ドラマはそうだけど、わたしのばあいには、ヒールは超危険だってわかった瞬間だったわ。だから、ぜったいに、むり」

「そうでちゅね」
 とマリンはうなずきました。「せっかくよい人があらわれたと思ったけど、べらちゃんにはむりでちゅね」
「そうなのよ」
 ふたりはため息をつきました。
「わたしは、ここで、スニーカーでくらすわ」

 ハロウィーンがきたら、ゴーちゃんはゴーストワールドに帰るのですから、トットとクマハはミラベール王国からサンフランシスコにもどってくるかもしれません。
 それに、モッヒだって、アフリカから、帰ってくるかもしれません。
 それに、もしかしたら、この家に、あたらしいフレンズがふえるかもしれません。
 あしたのことはだれにもわかりません。
 
 時は流れていくのだから、なんでも、変わっていくのがふつうです。
「だから、今は、たのしく生きようね」
「はい。でも、べらちゃん、たのしく生きるって、どういうことでちゅうか」
「すきなことにむかって、いっしょうけんめいに生きるということかしら」
「はい。ぼく、ここでいっしょうけんめいべんきょうしまちゅ。いつかマリンヘッドランドにかえったら、スカンクの子どもたちにべんきょうをおしえまちゅ」
「マリンくん、えらいなぁ」
「ほめてもらえて、うれしいでちゅ」

 べらとマリンは窓ぎわにならんで座って、バラの香りをかぎながら、まんまるの月を見ています。

                  ☆

 これでべらちゃんとゆかいな仲間の物語はおしまいです。
 もし、みなさんがサンフランシスコに来られたら、「べらちゃんと歩こう、サンフランシスコ」のツアーに参加してください。たのしいですよ。
 べらの物語を読んだよと告げてくださると、ツアーは無料です。


                       了