べらはラスベガスから帰ったら、モッヒとふたりでお出かけしようと決めていました。ふたりだけで出かけるとみんながうらやましがるかなと心配していたのですが、それはなかったです。というか、あまりにあっさりしすぎているくらい。
みんな、モッヒが悩んでいるのを知っていて、心配しているのかもしれません。
「ハバナイスデイ」
いい日をね、なんて言うと、みんなはすぐ家の中にはいってしまいました。
コンテストに向けて、毎日、はりきっているのです。
ひとつの目的に向かっている時ってすごい、とべらは思いました。
「べらちゃんとデート、楽しいな」
歩きながらモッヒが言いました。
「うん、楽しいね」
今年の冬はあたたかくて、空は真っ青にはりつめていて、寒い所に住んでいる人には悪い気がするくらいです。べらはカリフォルニアに来るまでは東部にいたので、冬の大変さを知っています。
メトロ駅まで歩く途中の家々に庭には、ピンクの花が咲いて、まだ1月なのに、春が近い感じです。
「春になったら、うれしいな」
べらがけんけんをしました。
「春になったら、何がうれしいんだい」
「うれしいことはいろいろあるけど、おばやが冬眠から戻ってくるのが、うれしいわ」
ふたりの行先はオーシャンビーチです。
オーシャンビーチでおやつを食べて、お話をし、それからゴールデンゲート・パークをお散歩し、モッヒが乗ってみたいと言ったら、ストーレイクでボートをこぐ、というのがべらの計画です。
「べらちゃん、あれ」
モッヒが線路の向《む》こう側のプラットホームを見ています。そこには、下着姿の3人の男性と2人の女性がいました。メトロに乗って、ダウンタウンに行くようです。
「いったい、にんげんに、何がおきたんだ。みんな、ふくをきていない」
あっ、そうだったわ。べらにはその意味がわかりました。
1月のこの日は「ノーパンツの日」でした。パンツとはズボンのことで、ズボンをはかない日です。でも、下着はつけていますよ。念のため。
「何だ、これは」
事情を知らないホームの人たちはみんな、くすくすと笑っています。
「べらちゃん、どうして、にんげんがズボンをはかないの?」
とモッヒがわからないという顔をしています。
無理はありませんよね。
べらが「ノーパンツディ」の説明をしました。
これは、「みんなを楽しくおどろかせて、暗い冬をはだかでぶっ飛ばせ」という世界的なイベントです。サンフランシスコはあたたかいからよいですが、寒いところでは大変でしょうね。
「べらちやん、写真をとって。みんなに見せたいから。マリンが見たら、おどろくだろうな」
べらが写真をとりながら気づいたことは、みんな、あまりスタイルを気にしていないということです。パンツからお肉がはみでた人もいますし、おなかが出ている人もいます。かくしたほうがいいんじゃない、という人もいました。
でも、そんなことは気にせず、冬の1日を楽しくやろうよ、ここはサンフランシスコだもんね。
Only in San Francisco
なんでも可能、なんでもできちゃうサンフランシスコ、という感じです。
オーシャンビーチに着きました。べらが一番好きな場所です。
だれもいない砂浜にすわって、しばらく、だまって海を見ていました。この海のむこうはアフリカなんだろうかとモッヒは考えていました。
「わたしにはノベンバーという大好きな人がいたの」
とべらが海を見たまま、言いました。
「ノベンバーって、11月?」
「そう。11月生まれなのよ。でも、ノベンバーは、3年前に亡くなってしまったの。彼はその時、お仕事でスウェーデンに行っていて、わたしがオーロラを見たいと言ったので、ノルウェーのオスロ空港で待ち合わせをしたのよ。でも、彼はそこに運転して来る途中のフリーウェイで、交通事故にあってしまったの。トラックが雪で滑って、ぶつかってきたのよ」
そうなんだ、とモッヒがうなずきました。
「ノベンバーは大学のせんぱいで、バイト先で知り合ったのよ。わたしは自分で学費も生活費も自分でかせがなくてはならなかったから、バイトを3つくらいかけもちしていたの。勉強も、仕事もあって、大忙しだったわ」
その夜中のバイトで、ノベンバーと知り合ったのです。それはレストランが閉まったあとのお掃除でした。
その頃のノベンバーは先のことを心配して、いもつ暗い顔をしていました。だから、べらは何かしてなぐさめてあげよたいと思ったのです。でも何もできないので、得意の逆立ちをして見せたら、ノベンバーが笑ったのでした。
べらは立ち上がって、砂の上で、くるりと回転してみせました。そして、砂に座って、
「もうあのスマイルは見られないってこと」
と手に砂をつかんで、ぱらばらと下に落としました。
「前に、モッヒくんと、言われると心にぐさりと突きささって。すごくきずつくことがあるって話したわよね」
「おぼえている。思い出すと、泣きたくなるって言ってた」
「ノベンバーのお姉さんがね、彼が死んだのはわたしのせいだって言ったの。わたしがオーロラが見たいなんて言わなかったら、死ななかったって。わたしと出会わなかったら、彼は生きていたって。そのことを思い出すとつらすぎて、今までだれにも言っていないの」
べらがくちびるをかみしめて、涙がこぼれないように上をむいたので、モッヒが背中をなでました。
「ぼくに話してくれてありがとう。約束をおぼえていてくれてありがとう」
「モッヒくんがアフリカにもどることについては、自分がしたいとようにするといいと思うわ。希望はふうせんよ」
「ふうせん?」
「そう。ヘリウムガスをいれすぎてわれてしまったら、またあたらしいふうせんをふくらませればいいのよ。いつかはふくらんで、空にとんでいける、とだれかが言っていた・・・・・・」
「うん。ぼくがアフリカにいってうまくいかなかったら、また別のことを考えればいいということだよね」
「そうよ」
「わかったよ、べらちゃん」
べらとモッヒがうちに帰ってきた時、みんなが集まってきて、どんな日だったのかとききました。
モッヒがノーパンツの人のことを言うと、
「みんながパンツをはかないのでちゅか」
とマリンがあわてて家から逃げ出しました。
そういう話を聞く用意がなかったのであまりにびっくりして、久しぶりにくさいシャワーを出しそうになったからです。
でも、子供のゴーちゃんがいるので、しげき的な話はよやめようね、とべらが目でサインを出しました。
「気にすることないよ」
とゴーちゃんです。
「ぼくはいつだって、ノーパンだい」
えっ、
べらのほうがおどろきました。
みんな、モッヒが悩んでいるのを知っていて、心配しているのかもしれません。
「ハバナイスデイ」
いい日をね、なんて言うと、みんなはすぐ家の中にはいってしまいました。
コンテストに向けて、毎日、はりきっているのです。
ひとつの目的に向かっている時ってすごい、とべらは思いました。
「べらちゃんとデート、楽しいな」
歩きながらモッヒが言いました。
「うん、楽しいね」
今年の冬はあたたかくて、空は真っ青にはりつめていて、寒い所に住んでいる人には悪い気がするくらいです。べらはカリフォルニアに来るまでは東部にいたので、冬の大変さを知っています。
メトロ駅まで歩く途中の家々に庭には、ピンクの花が咲いて、まだ1月なのに、春が近い感じです。
「春になったら、うれしいな」
べらがけんけんをしました。
「春になったら、何がうれしいんだい」
「うれしいことはいろいろあるけど、おばやが冬眠から戻ってくるのが、うれしいわ」
ふたりの行先はオーシャンビーチです。
オーシャンビーチでおやつを食べて、お話をし、それからゴールデンゲート・パークをお散歩し、モッヒが乗ってみたいと言ったら、ストーレイクでボートをこぐ、というのがべらの計画です。
「べらちゃん、あれ」
モッヒが線路の向《む》こう側のプラットホームを見ています。そこには、下着姿の3人の男性と2人の女性がいました。メトロに乗って、ダウンタウンに行くようです。
「いったい、にんげんに、何がおきたんだ。みんな、ふくをきていない」
あっ、そうだったわ。べらにはその意味がわかりました。
1月のこの日は「ノーパンツの日」でした。パンツとはズボンのことで、ズボンをはかない日です。でも、下着はつけていますよ。念のため。
「何だ、これは」
事情を知らないホームの人たちはみんな、くすくすと笑っています。
「べらちゃん、どうして、にんげんがズボンをはかないの?」
とモッヒがわからないという顔をしています。
無理はありませんよね。
べらが「ノーパンツディ」の説明をしました。
これは、「みんなを楽しくおどろかせて、暗い冬をはだかでぶっ飛ばせ」という世界的なイベントです。サンフランシスコはあたたかいからよいですが、寒いところでは大変でしょうね。
「べらちやん、写真をとって。みんなに見せたいから。マリンが見たら、おどろくだろうな」
べらが写真をとりながら気づいたことは、みんな、あまりスタイルを気にしていないということです。パンツからお肉がはみでた人もいますし、おなかが出ている人もいます。かくしたほうがいいんじゃない、という人もいました。
でも、そんなことは気にせず、冬の1日を楽しくやろうよ、ここはサンフランシスコだもんね。
Only in San Francisco
なんでも可能、なんでもできちゃうサンフランシスコ、という感じです。
オーシャンビーチに着きました。べらが一番好きな場所です。
だれもいない砂浜にすわって、しばらく、だまって海を見ていました。この海のむこうはアフリカなんだろうかとモッヒは考えていました。
「わたしにはノベンバーという大好きな人がいたの」
とべらが海を見たまま、言いました。
「ノベンバーって、11月?」
「そう。11月生まれなのよ。でも、ノベンバーは、3年前に亡くなってしまったの。彼はその時、お仕事でスウェーデンに行っていて、わたしがオーロラを見たいと言ったので、ノルウェーのオスロ空港で待ち合わせをしたのよ。でも、彼はそこに運転して来る途中のフリーウェイで、交通事故にあってしまったの。トラックが雪で滑って、ぶつかってきたのよ」
そうなんだ、とモッヒがうなずきました。
「ノベンバーは大学のせんぱいで、バイト先で知り合ったのよ。わたしは自分で学費も生活費も自分でかせがなくてはならなかったから、バイトを3つくらいかけもちしていたの。勉強も、仕事もあって、大忙しだったわ」
その夜中のバイトで、ノベンバーと知り合ったのです。それはレストランが閉まったあとのお掃除でした。
その頃のノベンバーは先のことを心配して、いもつ暗い顔をしていました。だから、べらは何かしてなぐさめてあげよたいと思ったのです。でも何もできないので、得意の逆立ちをして見せたら、ノベンバーが笑ったのでした。
べらは立ち上がって、砂の上で、くるりと回転してみせました。そして、砂に座って、
「もうあのスマイルは見られないってこと」
と手に砂をつかんで、ぱらばらと下に落としました。
「前に、モッヒくんと、言われると心にぐさりと突きささって。すごくきずつくことがあるって話したわよね」
「おぼえている。思い出すと、泣きたくなるって言ってた」
「ノベンバーのお姉さんがね、彼が死んだのはわたしのせいだって言ったの。わたしがオーロラが見たいなんて言わなかったら、死ななかったって。わたしと出会わなかったら、彼は生きていたって。そのことを思い出すとつらすぎて、今までだれにも言っていないの」
べらがくちびるをかみしめて、涙がこぼれないように上をむいたので、モッヒが背中をなでました。
「ぼくに話してくれてありがとう。約束をおぼえていてくれてありがとう」
「モッヒくんがアフリカにもどることについては、自分がしたいとようにするといいと思うわ。希望はふうせんよ」
「ふうせん?」
「そう。ヘリウムガスをいれすぎてわれてしまったら、またあたらしいふうせんをふくらませればいいのよ。いつかはふくらんで、空にとんでいける、とだれかが言っていた・・・・・・」
「うん。ぼくがアフリカにいってうまくいかなかったら、また別のことを考えればいいということだよね」
「そうよ」
「わかったよ、べらちゃん」
べらとモッヒがうちに帰ってきた時、みんなが集まってきて、どんな日だったのかとききました。
モッヒがノーパンツの人のことを言うと、
「みんながパンツをはかないのでちゅか」
とマリンがあわてて家から逃げ出しました。
そういう話を聞く用意がなかったのであまりにびっくりして、久しぶりにくさいシャワーを出しそうになったからです。
でも、子供のゴーちゃんがいるので、しげき的な話はよやめようね、とべらが目でサインを出しました。
「気にすることないよ」
とゴーちゃんです。
「ぼくはいつだって、ノーパンだい」
えっ、
べらのほうがおどろきました。

