みんながキッチンでジュースをのみながら、コンテストのことを話し合っていた時のことです。
リビングのほうから、ポロン、ポロンとピアノを叩く音がしたかと思ったら、水晶のように透明な歌声がきこえてきました。まるで天使が歌っているようです。
だれ?
みんなきょろきょろしました。
キッチンにいないのはゴーちゃんだけです。ゴ―ちゃんがレコードをかけたのかしら?でも、音がリアルすぎます。
べらがふしぎに思って、椅子から立ちあがって、リビングに行きました。みんな、ぞろぞろついていきました。
歌っていたのは、やはり、ゴ―ちゃんでした。
さっきまではただのやんちゃゴーストだったのに、今は光りかがやいてみえます。
「この歌は何なんでちゅか」
「アベマリアだわ」
とべらが答えました。
「きれいでちゅ。何語でちゅか」
「シューベルトのアベ・マリアだから、ドイツ語ね」
「アベ・マリアって、なんでちゅか」
「マリアはキリストという神の子のお母さんで、アベ・マリアは、マリアさま、こんにちは、といういみよ」
べらには音楽に詳しい友だちがいて、そのことを教えてくれました。その詩に曲をつけたのひとりではなく、バッハやカッチーニなども作曲したので、たくさんの「アベ・マリア」があるのです。たいていはラテン語なのですが、シューベルトのはドイツ語なのだそうです。
マリアさまに「こんにちは」と呼びかけている曲は、どれも特別にやさしくて、美しいのです。
シューベルトのお母さんはマリア・エリザベートといい、彼が15才の時に亡くなってしまいました。シューベルトはお母さんの愛とはどんなものなのかよく知らないから、マリアをお母さんのように思って、呼びかけているのかもしれません。
その音楽にくわしい人というのが、このピアノの持ち主でした。彼はお金がなかった時には、パンの耳だけ食べて、レコードを買うような人でした。そして、音楽アプリを作ってまとまったお金がはいった時、すぐに買ったのがこのピアノでした。
その日から毎日練習して、ある夜、べらのために、ショパンのソナタをひいてくれました。それが「別れの曲」した。
その時は未来はかぎりなく続いていたので、曲名のことは気にはしませんでしたが、今になってみると、なぜ「別れの曲」だったのだろうとべらはかなしく思うのです。
「じゃ、ゴーちゃんはドイツ人だったの?」
とクマハチが言いました。
「ゴーちゃん、もう1曲、うたってくだちゃい。かんげきしちゃっいまちた」
「いいよ」
ゴーちゃんがまた歌いだしました。
「ルアイエルブルースュグヌプセフォンドゥレ
エラテールブビヤンセクルレ
プマンボルトゥスィトユメム
ジュムフドュコンドンティユ」
またまたおどろき。今度はシャンソンです。
「何語でちゅか」
「これって、愛の賛歌だから、フランス語よ」
「じゃ、ゴ―ちゃんはフランス人なのか」
とトットです。
「ウイッ」
とゴ―ちゃんがフランス語で答えました。
「えっ。ゴ―ちゃん、フランス人だったの?」
べらが、からだを前のほうに出しました。
「ノン。べらちゃんはシンプルだね。ウィくらい、だれだって知っているよ」
それはそうだよね。
「もっと、歌える?」
とべらです。
「からたちの花が咲いたよ、
白い、白い花だよーーー」
「わぁー、今度は、日本語」
「じゃ、ゴーちゃんって、日本人でちゅか」
「おはよこざいます。ありがとう、すし、アニメ、ジブリパーク」
みんなの目が自分に集まったので、ふざけるゴ―ちゃんです。
「べらちゃん、ぼくも、ジブリパークにいきたいです」
とクマハチが言いました。
「ぼくも」、「ぼくも」
とみんなが言いました。
「コンテストにゆうしょうしたら、ひこうきのきっぷがもらえるでしょ。そしたら、みんなで行きましょう」
そうだ、そうだ。コンテストをかちぬいて、ジャパンに行くんだともり上がりました。でも、まず予選をとおらなければなりません。
「ゴーちゃん、どうしてそんなにいろいろな国の歌を知っているの?」
とべらがききました。
「ピアノにさわったら、急に、うかんできたんだよ。ママがよく歌っていたから」
「ママが?歌っていた!」
べらの目玉が上を向いたまま左右に忙しく動いて、止まりました。
「ねっ、ゴーちゃん、ほかに何かうかんでこない?」
「うーん、今のところは、これだけ」
べらが、うでぐみして、考えています。
「これで、少し、わかってきたわ。ゴーちゃんのママは音楽関係の人ね。それもクラッシック系。それに、ドイツ人か、フランス人か、日本人ね。世界中、何百もある国の中から、3つにしぼれたというのは、大きな進歩だわ。すごい、すごい」
べらが早口で言って、指を1本、2本、3本と折りました。よしよし、いいぞという顔です。
「ゴーちゃんは英語もしゃべれるぜ」
とモッヒが言いました。
「そうだったわ、じゃ、4カ国」
「イギリスも英語だよ」
「じゃ、5カ国」
「オーストラリアもだよ」
「ああ。それじゃ、これからお仕事の打ち合わせがあるから、出かけます。ゴーちゃんのことはあとで考えるとして、みんな、なかよく、れんしゅうしていてね。レッツゴー・ジブリパーク」
べらがガッツポーズをして、出かけていきました。
ゴーちゃんは、べらちゃんの話をきいて、思うことがありました。
べらちゃんはゴーストワールドのことをいろいろきいていたけれど、それはピアノをおいていった人のことが知りたいからなのかな。ぼくは、その人と、会ったことがあるのかな。もしかして、あのお兄ちゃんがピアノの人なのかな。
リビングのほうから、ポロン、ポロンとピアノを叩く音がしたかと思ったら、水晶のように透明な歌声がきこえてきました。まるで天使が歌っているようです。
だれ?
みんなきょろきょろしました。
キッチンにいないのはゴーちゃんだけです。ゴ―ちゃんがレコードをかけたのかしら?でも、音がリアルすぎます。
べらがふしぎに思って、椅子から立ちあがって、リビングに行きました。みんな、ぞろぞろついていきました。
歌っていたのは、やはり、ゴ―ちゃんでした。
さっきまではただのやんちゃゴーストだったのに、今は光りかがやいてみえます。
「この歌は何なんでちゅか」
「アベマリアだわ」
とべらが答えました。
「きれいでちゅ。何語でちゅか」
「シューベルトのアベ・マリアだから、ドイツ語ね」
「アベ・マリアって、なんでちゅか」
「マリアはキリストという神の子のお母さんで、アベ・マリアは、マリアさま、こんにちは、といういみよ」
べらには音楽に詳しい友だちがいて、そのことを教えてくれました。その詩に曲をつけたのひとりではなく、バッハやカッチーニなども作曲したので、たくさんの「アベ・マリア」があるのです。たいていはラテン語なのですが、シューベルトのはドイツ語なのだそうです。
マリアさまに「こんにちは」と呼びかけている曲は、どれも特別にやさしくて、美しいのです。
シューベルトのお母さんはマリア・エリザベートといい、彼が15才の時に亡くなってしまいました。シューベルトはお母さんの愛とはどんなものなのかよく知らないから、マリアをお母さんのように思って、呼びかけているのかもしれません。
その音楽にくわしい人というのが、このピアノの持ち主でした。彼はお金がなかった時には、パンの耳だけ食べて、レコードを買うような人でした。そして、音楽アプリを作ってまとまったお金がはいった時、すぐに買ったのがこのピアノでした。
その日から毎日練習して、ある夜、べらのために、ショパンのソナタをひいてくれました。それが「別れの曲」した。
その時は未来はかぎりなく続いていたので、曲名のことは気にはしませんでしたが、今になってみると、なぜ「別れの曲」だったのだろうとべらはかなしく思うのです。
「じゃ、ゴーちゃんはドイツ人だったの?」
とクマハチが言いました。
「ゴーちゃん、もう1曲、うたってくだちゃい。かんげきしちゃっいまちた」
「いいよ」
ゴーちゃんがまた歌いだしました。
「ルアイエルブルースュグヌプセフォンドゥレ
エラテールブビヤンセクルレ
プマンボルトゥスィトユメム
ジュムフドュコンドンティユ」
またまたおどろき。今度はシャンソンです。
「何語でちゅか」
「これって、愛の賛歌だから、フランス語よ」
「じゃ、ゴ―ちゃんはフランス人なのか」
とトットです。
「ウイッ」
とゴ―ちゃんがフランス語で答えました。
「えっ。ゴ―ちゃん、フランス人だったの?」
べらが、からだを前のほうに出しました。
「ノン。べらちゃんはシンプルだね。ウィくらい、だれだって知っているよ」
それはそうだよね。
「もっと、歌える?」
とべらです。
「からたちの花が咲いたよ、
白い、白い花だよーーー」
「わぁー、今度は、日本語」
「じゃ、ゴーちゃんって、日本人でちゅか」
「おはよこざいます。ありがとう、すし、アニメ、ジブリパーク」
みんなの目が自分に集まったので、ふざけるゴ―ちゃんです。
「べらちゃん、ぼくも、ジブリパークにいきたいです」
とクマハチが言いました。
「ぼくも」、「ぼくも」
とみんなが言いました。
「コンテストにゆうしょうしたら、ひこうきのきっぷがもらえるでしょ。そしたら、みんなで行きましょう」
そうだ、そうだ。コンテストをかちぬいて、ジャパンに行くんだともり上がりました。でも、まず予選をとおらなければなりません。
「ゴーちゃん、どうしてそんなにいろいろな国の歌を知っているの?」
とべらがききました。
「ピアノにさわったら、急に、うかんできたんだよ。ママがよく歌っていたから」
「ママが?歌っていた!」
べらの目玉が上を向いたまま左右に忙しく動いて、止まりました。
「ねっ、ゴーちゃん、ほかに何かうかんでこない?」
「うーん、今のところは、これだけ」
べらが、うでぐみして、考えています。
「これで、少し、わかってきたわ。ゴーちゃんのママは音楽関係の人ね。それもクラッシック系。それに、ドイツ人か、フランス人か、日本人ね。世界中、何百もある国の中から、3つにしぼれたというのは、大きな進歩だわ。すごい、すごい」
べらが早口で言って、指を1本、2本、3本と折りました。よしよし、いいぞという顔です。
「ゴーちゃんは英語もしゃべれるぜ」
とモッヒが言いました。
「そうだったわ、じゃ、4カ国」
「イギリスも英語だよ」
「じゃ、5カ国」
「オーストラリアもだよ」
「ああ。それじゃ、これからお仕事の打ち合わせがあるから、出かけます。ゴーちゃんのことはあとで考えるとして、みんな、なかよく、れんしゅうしていてね。レッツゴー・ジブリパーク」
べらがガッツポーズをして、出かけていきました。
ゴーちゃんは、べらちゃんの話をきいて、思うことがありました。
べらちゃんはゴーストワールドのことをいろいろきいていたけれど、それはピアノをおいていった人のことが知りたいからなのかな。ぼくは、その人と、会ったことがあるのかな。もしかして、あのお兄ちゃんがピアノの人なのかな。

